CHAPTER 01 印鑑の基礎知識

世界にも印鑑文化はある?中国・韓国・ヨーロッパと日本の違い

世界の印鑑文化を国ごとに比べます。紀元前の西アジアで生まれた印は、ヨーロッパや中国、韓国、台湾で今どう使われているのか。日本の実印・銀行印・認印との違いとあわせて、百科事典と各国の公的な資料をもとに説明します。

公開日: 2026年10月10日

生成りの麻の布の上に、木の持ち手の真鍮の封蝋用スタンプ、深緑の封蝋の棒2本、上面が平らな金の印章指輪、獅子の飾りが付いた淡い緑の石の印材、黒水牛の印材が並ぶ。革装の本と白い封筒、オリーブの枝も添えられている
世界の印鑑文化 封蝋、指輪、石。印は形を変えながら、世界中で使われてきました

外国の友人に印鑑を見せたら、珍しそうに手に取られた。留学生に名前の印鑑を贈ろうとして、「ハンコを使うのは日本だけなのかな」と気になった。そんな経験のある方へ、印がどこで生まれ、国ごとにどう使われてきたのかをお話しします。

先に結論

印鑑文化は、日本だけのものではありません。印は紀元前の西アジアで生まれ、エジプトやヨーロッパにも伝わりました。そのヨーロッパでは18〜19世紀に署名が主役になり、印が残ったのは公文書や封蝋くらいです。一方の東アジアには、日本のほかにも、手続きで印を使い続けている国や地域があります。韓国と台湾には、個人の印鑑を役所に届け出て証明を受ける制度があります。中国では、会社や役所の印の形を国が定めています。

印鑑の起源は、紀元前の西アジア

世界大百科事典によると、印は西アジアで生まれました。最も古いものは、トルコや北イラクで見つかったスタンプ形の印で、粘土や石でできています。紀元前6千年紀、今から7,000〜8,000年ほど前のもので、幾何学模様が彫られています。その後、印はエジプトやヨーロッパにも伝わりました。東アジアでも、古くから使われています。

  1. 前6千年紀
    西アジアで、スタンプ形の印が生まれる

    印に模様を彫り、粘土の塊に押して、封をしたしるしにしました。

  2. 前4千年紀末
    メソポタミアで、転がして押す円筒印章が広まる

    小さな円筒形の石に模様を彫り、生乾きの粘土板の上で転がして使いました。持ち主の名前を彫ったものも多くあります。

  3. 殷の時代
    中国で、銅の印が作られる

    ブリタニカ国際大百科事典によると、中国で印が使われ始めたのは殷の時代(紀元前1300〜1050年ごろ)です。

  4. 秦・漢の時代
    役人の身分を示す「官印」の制度が整う

    役職に就くと、印とそれを下げるひもを授けられ、職を失うと取り上げられました。印の素材とひもの色で、身分の高さが分かりました。

  5. 57年
    日本に金印「漢委奴国王」がもたらされる

    後漢の光武帝が与えたとされ、江戸時代に福岡県の志賀島で見つかりました。日本で印を使い始めたのは、奈良時代の役所です。

はじめのころの印は、紙ではなく粘土に押すものでした。中国でも、紙が広まる前は、木の札に書いた文書をひもで縛り、結び目に付けた粘土に印を押していました。紙に朱肉で押すようになったのは、6世紀、南北朝時代の末からです。

ヨーロッパ|印から署名(サイン)へ移り、今は封蝋や指輪に残る

中世のヨーロッパでも、手紙や証書には印を押していました。使い始めたのは王や貴族、聖職者で、13世紀の末には農夫や商人にまで広まりました。指輪に付ける小さな印は、金や宝石でも作られました。印を押すのは、古くは蝋や粘土の上でした。16世紀からは、松やになどを混ぜて作る封蝋も使われました。

ところが16世紀ごろから、自分の手で書く署名(サイン)が重んじられるようになりました。世界大百科事典によると、18〜19世紀には署名だけで済ませるようになり、印を押すのは公文書に限られました。署名がこれほど大切にされるもとは、中世の商人が遠くの取引先へ送った手紙にあるといいます。その手紙から為替手形が生まれ、信用のある銀行業者の署名は、公証人の証明がなくても通用しました。

ヨーロッパの印と聞いて思い浮かぶのは、封筒を閉じる封蝋や、紋章を彫った指輪の印でしょう。どちらも、署名が主役になる前から使われてきた形です。今のヨーロッパで本人確認に使うのは、署名と公証人の証明です。海外に住む日本人が日本で不動産の登記をするときも、考え方は変わりません。印鑑証明書の代わりに、日本の領事や外国の公証人が作る署名証明を付けます。

今も手続きで印鑑を使う国|中国・韓国・台湾

東アジアには、今も役所や会社の手続きで印を使う国や地域があります。ただ、使い方はそれぞれかなり違います。ヨーロッパや日本と並べてみます。

中中国ちゅうごく
  • 会社や団体の印
  • 役所の印
  • 書画の落款

政府(国務院)が1999年に定めた規定では、会社や団体の印は直径4.5cm以下の丸形です。中央に星を置き、そのまわりに名前を左から右へ円く並べます。文字は簡体字で、書体は日本の明朝体にあたる宋体です。日本の会社印に多い篆書体とは、ずいぶん印象が違います。

会社や役所の手続きで使う
韓韓国かんこく
  • 印鑑の届け出
  • 印鑑証明書
  • 本人署名事実確認書

ソウル特別市道峰区の案内によると、印鑑は、身分証と一緒に役所へ持って行って届け出ます。印鑑証明書の代わりになる「本人署名事実確認書」もあります。本人が窓口で署名して受け取る書類で、前もって届け出る必要はありません。効力は印鑑証明書と同じとされています。

個人の手続きで使う
台台湾たいわん
  • 印鑑登記
  • 印鑑証明

戸籍を扱う役所(戸政事務所)で、印鑑を登記して、印鑑証明を受けられます。台北市の規則では、手数料は印鑑登記が1回、印鑑証明が1枚につき、どちらも20台湾ドルです。

個人の手続きで使う
欧ヨーロッパよーろっぱ
  • 署名
  • 公証人
  • 封蝋・指輪の印

本人が書いたかどうかは、署名で確かめます。大事な書類では、公証人がその署名を証明します。印は、封蝋や紋章の指輪のように、伝統や儀式の場面に残っています。

手続きでは署名を使う
日日本にほん

1人が、用途ごとに印鑑を使い分けます。市区町村に登録する実印、金融機関に届け出る銀行印、届け出ずに日々の書類に押す認印の3つです。印面には名前だけを彫り、書体は篆書体などから選べます。

個人も会社も手続きで使う

色の付いた3つは、当店でお作りしている印鑑です

並べてみると、個人が印鑑を届け出て証明を受ける仕組みは、日本と韓国、台湾に共通しています。そのうち韓国では、署名でも同じ効力の証明を受けられます。中国の会社や役所の印は、丸の中に星という形まで国が決めています。

外国の方に日本の印鑑を贈るなら

職人が彫る印鑑は、名前に合わせて1本ずつ印面を作るので、同じ印影は2つとありません。漢字の名前がない方でも、カタカナやアルファベットで作れます。篆書体などの書体で自分の名前を彫った印鑑は、日本で過ごした時間の記念になります。

日本で暮らす方なら、記念としてだけでなく、手続きにも使えます。住民登録をしていれば、条件に合う印鑑を実印として登録できます。銀行口座の届出印(銀行印)も作れます。彫る名前の表記は、住民票に合わせるのが基本です。作る順番と表記の決め方は、日本で暮らし始める外国人の印鑑準備で説明しています。カタカナの彫り方は、カタカナの印鑑は作れる?をご覧ください。

贈り物として選ぶときの考え方は、「外国人への日本らしい贈り物に印鑑を」にまとめています。留学を終えて国へ帰る方に贈るなら、帰国する留学生への印鑑プレゼントも参考になります。

よくある質問

中国の人は、個人でも印鑑を使いますか

書や絵に押す落款として、個人の印は今も受け継がれています。14世紀、元の時代の末からは、印を自分で彫る篆刻が文人のたしなみになりました。一方、暮らしの中で個人の印が要るかどうかは、手続きによって違います。印鑑を贈るなら、ご本人に使い道を聞いてから作ることをおすすめします。

外国の方へ贈る印鑑は、どの書体がいいですか

記念に持ち帰るなら、古くから印に使われてきた篆書体を選ぶと、印鑑らしい見た目になります。日本で認印として使うなら、読みやすい古印体や隷書体が向いています。書体ごとの印象は、印鑑の書体一覧で見比べられます。

海外へ印鑑を持ち出すときに、気をつけることはありますか

象牙の印鑑は、原則として国外へ持ち出せません。海外へ持ち帰る方には、象牙以外の素材を選んでください。詳しくは、海外へ印鑑をプレゼントする前にで説明しています。

日本に住む外国人は、サインで手続きできませんか

署名で受け付ける手続きもあります。ただ、住宅ローンや車の登録などでは、印鑑証明書を求められることがあります。住民登録をしていれば、実印を登録できます。条件は外国人でも実印は作れる?をご覧ください。

まとめ|外国の方の印鑑を作るときに決めること

まず、日本で手続きに使うのか、記念に持ち帰るのかを確かめます。日本で使うなら、彫る名前を住民票と同じ表記にします。記念なら、ふだんの呼び名や、好きな漢字を当てた名前でもかまいません。

次に、文字の種類を決めます。漢字、カタカナ、アルファベットのどれで彫るかで、印影の雰囲気が変わります。最後に素材です。国外へ持ち出すなら、象牙は避け、黒水牛や柘、チタンから選びます。

外国の方の名前でも、お作りします

漢字も、カタカナも、アルファベットも。京都の職人がお名前に合わせて彫刻します

職人がお名前の字に合わせて印面を設計し、1本ずつ彫刻します。住民票どおりの表記で承りますので、注文のときに正確なつづりをお知らせください。全国送料無料、5年保証です。

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名前の表記や文字数で迷う場合は、お問い合わせからご相談いただけます。

SOURCES

出典

印章と署名の歴史は、改訂新版 世界大百科事典、日本大百科全書(ニッポニカ)、ブリタニカ国際大百科事典の「印章」「円筒印章」「署名」の項によります。中国の公印の決まりは中国国務院の規定、韓国の制度はソウル特別市道峰区、台湾の制度は台北市の規則、海外に住む日本人の署名証明は法務省の案内によります。

  1. 印章. 改訂新版 世界大百科事典・日本大百科全書(ニッポニカ)・ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典. 平凡社・小学館・ブリタニカ・ジャパン(コトバンク). https://kotobank.jp/word/%E5%8D%B0%E7%AB%A0-32908,(参照 2026-10-10).
  2. 円筒印章. 改訂新版 世界大百科事典・山川 世界史小辞典 改訂新版. 平凡社・山川出版社(コトバンク). https://kotobank.jp/word/%E5%86%86%E7%AD%92%E5%8D%B0%E7%AB%A0-38296,(参照 2026-10-10).
  3. 署名. 改訂新版 世界大百科事典. 平凡社(コトバンク). https://kotobank.jp/word/%E7%BD%B2%E5%90%8D-4626,(参照 2026-10-10).
  4. 封蝋. デジタル大辞泉. 小学館(コトバンク). https://kotobank.jp/word/%E5%B0%81%E8%9D%8B-616114,(参照 2026-10-10).
  5. 中華人民共和国国務院. 国务院关于国家行政机关和企业事业单位社会团体印章管理的规定(国发〔1999〕25号). 中国政府网. https://www.gov.cn/zhengce/content/2010-11/15/content_1273.htm,(参照 2026-10-10).
  6. ソウル特別市道峰区. 印鑑の届出/発給. https://www.dobong.go.kr/subsite/jpn/info/info1_3.asp,(参照 2026-10-10).
  7. 臺北市政府. 臺北市印鑑登記及印鑑證明收費標準. 臺北市法規查詢系統. https://laws.gov.taipei/law/LawSearch/LawArticleContent/FL049364,(参照 2026-10-10).
  8. 法務省民事局. 外国に居住しているため印鑑証明書を取得することができない場合の取扱いについて. 法務省ウェブサイト. https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00346.html,(参照 2026-10-10).