CHAPTER 16 印鑑の贈り物・マナー

職人が作るプレゼントに印鑑を|制作工程と価格の見方

量産品ではなく、職人が1つずつ作った品を贈りたい。そう考えたときに、印鑑は名前を彫って作る受注制作の品として候補になります。印鑑は「字入れ・荒彫り・仕上げ」の3つの工程で作られ、どの工程を職人が行うかで印影の価値が変わります。価格が印材と直径で決まり、職人の手間はどの印材でも同じだという見方、京印章の証明書や彫る前の印影確認で「職人が作った」と分かる贈り物にする方法、注文から渡すまでの日数、器や革小物など他の工芸品との比べ方まで、贈る側の目線で説明します。

公開日: 2026年9月24日

京都の印章店の木の作業台。木の印床に黒水牛の印材を横たえて布を掛け、隣の木の台に丸い柄の印刀が並び、真鍮のルーペ、砥石、刷毛、小皿、木の筒に立てた淡い色の印材が置かれ、奥に木材を積んだ棚がぼんやり見える
職人が作るプレゼント 名前を彫る印鑑は、注文を受けてから職人が作り始める品です

「量産品ではなく、だれかが手をかけて作ったものを贈りたい」。そう考えて贈り物を探す方が増えています。器、革小物、箸、万年筆と候補はいろいろありますが、印鑑もそのひとつです。印鑑は相手の名前を彫って作りますので、注文を受けてから職人が作り始める受注制作の品で、同じものは世界にありません。ただ、印鑑がどう作られているのか、「職人が作った」とはどの工程を指すのか、価格は何で決まるのかは、贈る側にはなかなか見えないところです。この記事では、印鑑の制作工程と価格の見方を説明し、職人が作った品として自信を持って渡せる贈り物にする方法をまとめます。印鑑を贈るときの名前や本数の決め方はプレゼント用印鑑の選び方をご覧ください。

先に結論

印鑑は「字入れ・荒彫り・仕上げ」の3つの工程で作られ、字入れをだれがするかで、その人だけの印影になるかが決まります。価格は印材と直径で決まり、職人の手間はどの印材でも同じです。ですから、予算に合わせて薩摩本柘を選んでも、職人の仕事の中身は象牙と変わりません。「職人が作った」と分かる贈り物にするには、彫る人の名前が分かること、彫る前に印影を見せてもらえること、京印章の証明書のように第三者の認定があることの3つを確かめてください。注文から届くまでは3〜7営業日、印影確認を入れるならさらに2〜3日を見ておきます。

「職人が作った贈り物」に印鑑が向く理由

職人が作った品を贈りたいと考える方は、たいてい3つのことを望んでいます。量産品ではないこと、作り手の顔が見えること、そして相手のために作られたと分かることです。印鑑はこの3つを同時に満たせる、数少ない贈り物です。名前を彫るという性質上、注文を受けてから作りますので、店の棚に並んだ品を選ぶのではなく、その人のために1本が生まれます。

名前があるから、注文してから作る既製品を選ぶのではなく、相手の名前を受け取ってから職人が字を作ります。同じものは2本とありません
作り手が分かるだれが彫ったかが分かり、京印章のように伝統工芸として認定を受けた品なら証明書も添えられます
一生の道具として残る実印や銀行印は登録して何十年も同じ1本を使います。職人の仕事が、押すたびに印影として現れます

印鑑はどう作られるか|3つの工程

公益社団法人全日本印章業協会は、印章の彫刻を「字入れ」「荒彫り」「仕上げ」の3つの工程に分けて定義しています。贈る側が知っておきたいのは、この3つのうち、どの工程を職人が行っているかで、できあがる印鑑の性格が変わることです。

工程1

字入れじいれ

彫る字を印面に作る工程です。名前の字の画数と形を見て、線の太さ、文字の配置、枠との接し方を決めます。

印影に表れるところその人だけの印影になるかどうか。ここを職人が行えば、同じ名前・同じ書体で頼んだ人とも同じ印影にはなりません

工程2

荒彫りあらぼり

字入れした線に沿って、印面の不要な部分を彫り下げる工程です。文字と枠の形が立ち上がります。

印影に表れるところ線の深さと切れのなさ。彫りが浅いと、線の途中がかすれる印影になります

工程3

仕上げしあげ

文字と枠の縁を整え、線の太さの抑揚をつけ、試し押しをして確かめる工程です。印面が平らに整い、枠が一周きれいに写るようにします。

印影に表れるところ線の抑揚と枠の整い。同じ字入れでも、仕上げの刀が入るかどうかで印影の表情が変わります

同協会は、3つの工程すべてを手で行うものを「手彫り」、荒彫りだけ機械で行い字入れと仕上げを手で行うものを「手仕上げ彫り」、すべて機械で行うものを「機械彫り」と呼び分けており、消費者向けの資料で、店がどの工程をどう行っているかを確かめるよう呼びかけています。贈り物として大切なのは、「手彫り」という言葉そのものより、字入れと仕上げを職人が行っているかどうかです。ここが職人の手であれば、印影はその人だけのものになり、量産品とは別のものになります。3つの呼び方の詳しい違いは印鑑の手彫りと機械彫りの違いで工程ごとに比べています。

当店では、京印章制作士が字入れから仕上げまでを担当します

当店の印鑑は、京都府の伝統的工芸品「京印章」の制作士として認定された池上翠雲が、印影のデザイン(字入れ)から彫刻、仕上げ、検品まで担当しています。名前の字を1本ごとに設計しますので、贈る相手と同じ姓の方がほかで作った印鑑と、同じ印影になることはありません。彫る前に印影をメールでお見せする「印影のご確認」にも対応しています。

価格はどこで決まるか|職人の手間は印材で変わりません

職人が作る品は高いのではないか、と心配される方がいらっしゃいます。印鑑の価格の見方はとても単純で、印材の種類と直径で決まります。字入れから仕上げまでの職人の仕事は、薩摩本柘でも象牙でも同じです。ですから、予算に合わせて印材を選んでも、「職人が作った」という中身は変わりません。当店の実印15mmで見ると、価格の差はそのまま印材の差です。

実印15mmの価格と、その中身職人の仕事(字入れ・彫刻・仕上げ)と付属品はどの印材でも同じ。薩摩本柘の価格を基準にすると、それを超える部分が印材の差です

薩摩本柘
職人の仕事+付属品+柘の印材
11,900円
黒水牛
印材
15,300円
チタン
印材
31,800円
本象牙(標準)
印材
36,100円

帯の長さは価格に比例しています。付属品は牛革ケース、朱肉、押印マット、保証書、京印章証明書で、どの印材にも付きます。

この見方を知っておくと、予算の使い方が決めやすくなります。1万円台なら薩摩本柘か黒水牛の1本、2万円台なら薩摩本柘の3本セット、3万円台なら黒水牛の3本セットかチタンの実印1本、という具合です。どれを選んでも職人の仕事は同じですので、「安い印材だから手を抜いた品」にはなりません。値段の差が生まれる仕組みは安い印鑑と高い印鑑の違いで詳しく説明しています。

「職人が作った」と分かる贈り物にするには

贈る側としては、渡すときに「職人が作ったものだよ」と自信を持って言いたいものです。そのために確かめておきたいことは3つあります。彫る人の名前が分かること、彫る前に印影を見せてもらえること、第三者の認定や証明があることです。当店の印鑑には、この3つを形にしたものが添えられます。

京印章証明書
京印章証明書京都府の伝統的工芸品「京印章」の制作士が作った印章であることを示す証明書です。渡すときの説明になります
彫る前に確認する印影の比較
彫る前の印影確認注文時に「印影のご確認」を選ぶと、2〜3日後に印影をメールでお送りします。字の形を見てから彫刻に進めます
5年保証の保証書
5年保証の保証書お届けから5年以内の欠けや不具合は、状態を確認のうえ修理や彫り直しをご案内します。長く使う道具だからこその保証です
桐箱
桐箱・化粧箱2本セットと3本セットは、桐箱か化粧箱を追加料金なしで選べます。工芸品らしい姿で渡せます

京印章は、京都府の伝統的工芸品に指定され、特許庁の地域団体商標にも登録されている名称です。京都府の案内では、中国の漢の時代の印章の作風を受け継いだ重厚な作風が特徴とされています。京印章の名で証明書を発行できるのは、認定を受けた制作士と販売店に限られますので、贈り物の由緒を裏付けるものになります。京印章の歴史と特徴は京印章とは?でまとめています。

注文から渡すまでの流れと日数

職人が注文を受けてから作る品ですので、既製品のようにその日に持ち帰ることはできません。当店では、ご注文から発送まで3〜7営業日をいただいています。彫る前の印影確認を入れる場合は、印影をお送りするまでに2〜3日、ご確認いただいて彫刻に入りますので、その日数が加わります。贈る日が決まっているなら、2〜3週間前に注文しておくと余裕があります。

  1. 1相手の名前の字を確かめる

    姓か名かフルネームかを決め、旧字体や珍しい字は本人か家族に確かめます。ここが受注制作の起点です。

  2. 2印材、直径、書体、ケースを選んで注文する

    予算に合わせて印材を選びます。職人の仕事はどの印材でも同じです。贈り物なら「印影のご確認」と「包装」を選びます。

  3. 3職人が字入れをし、印影が届く

    名前の字の画数と形を見て、線の太さと配置を設計します。2〜3日後にメールで印影が届きますので、字の形を見て返信します。

  4. 4彫刻、仕上げ、検品

    印材に彫刻し、文字と枠の縁を整え、試し押しをして確かめます。この工程が印影の表情を決めます。

  5. 5桐箱や包装を整えて発送

    牛革ケース、朱肉、押印マット、保証書、京印章証明書を添え、選んだ箱と包装でお届けします。送料は無料です。

  6. 6作り手の話を添えて渡す

    「京都の職人が、あなたの名前に合わせて字を作って彫ったもの」と伝え、証明書を見せます。その場で1回押してみると、印影の出来がいっしょに伝わります。

伝統工芸職人 池上翠雲が作業台で印鑑を制作している様子
京都・伏見の印章店から

注文を受けてから、1本ずつ作り始めます

当店は大正15年に京都・伏見で創業した印章店です。京印章制作士の池上翠雲が、贈る相手の名前を受け取ってから字を設計し、彫刻と仕上げまでを担当します。店頭でも通販でも、同じ職人が同じ工程で作ります。

贈り物として渡すときに「だれが、どう作ったか」を説明できることが、職人が作るプレゼントのいちばんの価値です。証明書と印影の写しを、ぜひいっしょにお渡しください。

当店と職人について

器や革小物と比べたとき、印鑑はどこが違うか

職人が作る贈り物には、印鑑のほかにも器、革小物、箸、万年筆などがあります。どれも良い品ですが、「相手の名前で作る」「毎日ではないが人生の節目に必ず使う」「登録して何十年も同じものを使う」という3つがそろうのは印鑑だけです。他の工芸品と比べて見ておきたいところを並べます。

器(陶磁器・漆器)

毎日の食卓で使え、作家ものは1点ごとに表情が違います。名前は入りません。割れる心配があり、好みの色や形が分かれます。

相手のために
作家の作品から選ぶ。受注制作は少ない
使う場面
毎日の食事
残り方
割れなければ長く。欠けたら金継ぎ

革小物(財布・名刺入れ)

使い込むほど風合いが出ます。イニシャルの刻印ができる工房もあります。色や形の好みが強く出て、数年で入れ替わる品でもあります。

相手のために
刻印は可能。形は既製
使う場面
毎日
残り方
3〜5年で買い替えが多い

万年筆・木軸のペン

職人が削った木軸のペンは1本ごとに木目が違い、名前の刻印もできます。書く習慣のある人には長く使われますが、ない人には出番が少なくなります。

相手のために
刻印は可能。書き味は好みが出る
使う場面
書く習慣による
残り方
手入れをすれば長く

印鑑

名前を彫るので、注文を受けてから職人が作ります。印影は世界にひとつ。実印や銀行印として登録すれば、何十年も同じ1本を使い、押す場面はどれも人生の節目です。

相手のために
名前で字を設計する。完全な受注制作
使う場面
契約、口座、登録など節目ごと
残り方
登録したまま一生。5年保証で修理

京都らしい工芸品を予算1万円以上で探す場合の比べ方は京都らしい贈り物を1万円以上ででまとめています。器や革小物と印鑑を組み合わせて、毎日使う品と一生使う品を1つの箱で贈る選び方もあります。

渡すときに伝えたい、作り手の話

職人が作った贈り物は、渡すときのひとことで価値が伝わります。品物だけを渡すのではなく、だれがどう作ったかを添えてください。難しい説明は要りません。

就職する子へ

「京都の職人さんが、あなたの名前の字を見て、線の太さや配置を考えて彫ってくれたもの。同じ印影は世界にないから、実印として登録して大切に使って」字入れが職人の手であることを、平易な言葉で伝えます。証明書をいっしょに見せると、話が具体的になります

友人の開業祝いに

「注文してから職人さんが作るものだから、少し時間をもらったよ。屋号の字は彫る前に見せてもらって決めた」受注制作で日数がかかったことも、贈り物の物語になります。印影確認に加わってもらう形もあります

よくある質問

「職人が作った」と書いてある店なら、どこでも同じですか

店によって、職人が行う工程の範囲が違います。全日本印章業協会は、字入れ・荒彫り・仕上げのどの工程をどう行っているかを確かめるよう消費者に呼びかけています。「職人」「手彫り」という言葉だけでなく、彫る人の名前、字入れをだれがするか、彫る前に印影を見せてもらえるかの3つが書いてあるかを見てください。確かめ方は手彫り印鑑の選び方にまとめています。

職人が作る印鑑は、量産品よりずっと高いのですか

100円の既製品と比べれば高くなりますが、当店では認印の6,400円、実印の10,700円から職人が制作しています。価格の差の大部分は印材と直径で、職人の仕事の中身は印材によって変わりません。予算に合わせて薩摩本柘を選んでも、字入れから仕上げまでの工程は象牙と同じです。

制作の様子を、贈る相手に見せることはできますか

彫る前の印影を「印影のご確認」でお送りしますので、その印影を写して贈り物に添えることができます。字入れという工程の結果をそのまま見せられますので、「職人がこの字を設計した」という説明が具体的になります。京都・伏見の店舗にお越しいただければ、店頭で職人と相談しながら注文することもできます。

急いでいるのですが、職人が作る印鑑は間に合いますか

ご注文から発送まで3〜7営業日です。印影確認を省き、名前の字を備考欄で正確にお伝えいただく形が最短です。渡す日が迫っている場合は、ご注文の前にお問い合わせで日程をお知らせください。間に合う注文のしかたは印鑑のプレゼントを急ぎで用意するには?で説明しています。

まとめ|工程を知れば、職人の仕事が見えてきます

職人が作るプレゼントとして印鑑を贈るなら、印鑑が「字入れ・荒彫り・仕上げ」の3つの工程で作られ、字入れと仕上げを職人が行うことでその人だけの印影になる、という仕組みを知っておくと選びやすくなります。価格は印材と直径で決まり、職人の手間はどの印材でも同じですので、予算に合わせて印材を選んでも品の中身は変わりません。「職人が作った」と分かる贈り物にするには、彫る人の名前、彫る前の印影確認、京印章証明書のような第三者の認定の3つを確かめてください。当店では、京印章制作士の池上翠雲が字入れから仕上げまでを担当し、証明書と5年保証を添えてお届けしています。注文から届くまで3〜7営業日ですので、渡す日から2〜3週間前を目安にご注文ください。

SOURCES

出典

印章の彫刻工程の定義と呼び方は公益社団法人全日本印章業協会の資料を、京印章の歴史と特徴は京都府の案内と特許庁の地域団体商標の登録情報を参照しました。工程の呼び方は店によって異なることがあります。価格は当店の税込価格で、記事作成時点のものです。

  1. 公益社団法人全日本印章業協会. 彫刻作業工程の定義・彫刻作業工程の図表. https://www.inshou.or.jp/inshou/common/pdf/2024sagyoukouteihyou.pdf,(参照 2026-09-24).
  2. 公益社団法人全日本印章業協会. 消費者の皆さまへ. https://www.inshou.or.jp/inshou/common/pdf/2024teborishiage.pdf,(参照 2026-09-24).
  3. 京都府. 京印章[京都府の伝統的工芸品等]. https://www.pref.kyoto.jp/senshoku/1272266181763.html,(参照 2026-09-24).
  4. 経済産業省 特許庁. 商標登録第5015715号 京印章(きょういんしょう). 地域団体商標登録案件一覧. https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/chidan/shoukai/ichiran/5015715.html,(参照 2026-09-24).