CHAPTER 07 サイズ・形・選び方

手彫り印鑑の選び方|彫り方の確かめ方と印材・書体・サイズ

手彫り印鑑と呼ばれる印鑑は、字入れ・荒彫り・仕上げの3つの工程のどこまでを人の手で行うかで、手彫り、手仕上げ彫り、機械彫りに分かれます。選ぶときに確かめたいのは、彫る字をだれが作るのか、仕上げをだれがするのか、彫る前の印影を見せてもらえるのかの3つです。そのうえで、刀の入りやすさと欠けにくさで印材を、実印・銀行印と認印で書体を、名前の文字数でサイズを決める手順を、価格と納期の目安を添えて、はじめて職人の印鑑を注文する方に向けて説明します。

公開日: 2026年9月24日

濃いウォールナットの作業台を真上から写した写真。広げた藍色の道具巻きに糸を巻いた柄の印刀が6本並び、その横のリネンの上に白水牛の印材が横たわる。真鍮のルーペ、砥石、筆を渡した墨皿、小さな真鍮のピンセット、白い削りくず。端には赤い布を敷いた桐箱の中に閉じた黒いレザーケース
手彫り印鑑の選び方 「手彫り」の言葉が指す範囲を知ってから、印材と書体を決めます

実印や銀行印を作るなら手彫りがよい、と聞いて調べはじめると、「完全手彫り」「手彫り仕上げ」「手仕上げ」と似た言葉が店ごとに並び、どれを選べばよいのか分からなくなります。この記事では、手彫りという言葉が指す範囲を業界団体の定義で整理し、注文の前に店に確かめることを3つに絞ったうえで、印材、書体、サイズ、本数の決め方を順に説明します。彫り方そのものの工程の違いは、手彫りと機械彫りの違いで詳しく比べています。

先に結論

手彫りと呼ばれる印鑑は、「字入れ」「荒彫り」「仕上げ」の3つの工程のどこまでを人の手で行うかで、手彫り、手仕上げ彫り、機械彫りに分かれます。選ぶときに大切なのは、呼び名ではなく、彫る字を職人が作っているか、仕上げを職人がしているか、彫る前の印影を見せてもらえるかの3つです。この3つがそろっていれば、同じ名前でも同じ印影にはならず、実印や銀行印に安心して使えます。印材は刀の入りやすさと欠けにくさで薩摩本柘か黒水牛から、書体は実印と銀行印を篆書体か吉相体に、サイズは名前の文字数で決めます。当店では京印章制作士が印影のデザインから彫刻、仕上げまでを担当し、実印は10,700円から、3本セットは21,700円からお作りしています。

「手彫り」という言葉が指す範囲

公益社団法人全日本印章業協会は、印鑑の彫刻を「字入れ」「荒彫り」「仕上げ」の3つの工程に分け、どこまでを人の手で行うかで呼び名を定めています。3つの呼び名を、手の割合が多い順に並べました。

手彫りすべての工程が手

  • 字入れ|職人が手で書く
  • 荒彫り|印刀で彫る
  • 仕上げ|手で整える

彫刻機を一切使いません。1本に数日かかることもあり、価格もいちばん高くなります。

手仕上げ彫り荒彫りだけ機械

  • 字入れ|職人が手で書く、または字を全面的に直す
  • 荒彫り|彫刻機で彫る
  • 仕上げ|手で整える

字は職人が作り、彫る作業の一部を機械が担います。同じ印影はできません。

機械彫り字はフォント

  • 字入れ|パソコンの書体
  • 荒彫り|彫刻機で彫る
  • 仕上げ|機械のまま、または短い手直し

字を直さずに彫ると、同じ名前と書体で同じ印影ができることがあります。

公益社団法人全日本印章業協会「彫刻作業工程の定義」をもとに作成。同じ協会は、「手彫り仕上げ」という表示が協会の工程表にはない呼び名で、協会の定める「手彫り」とは異なると消費者に注意を呼びかけています。

ここで知っておいていただきたいのは、店の呼び名と協会の定義が一致しているとは限らないことです。「手彫り」と書いてある店が手仕上げ彫りを指していることも、「職人仕上げ」と書いてある店が字入れをフォントで済ませていることもあります。だからこそ、呼び名で選ぶのではなく、次に挙げる3つを店に確かめてください。

注文の前に、店に確かめる3つのこと

呼び名より、この3つを確かめてください

  • 彫る字を、だれが作るのかいちばん大切な点です。職人が名前の字の形を見て1本ごとに書くのか、パソコンの書体をそのまま使うのか。字を職人が作っていれば、同じ名前の人が同じ店で作っても同じ印影にはなりません
  • 仕上げを、だれがするのか彫ったあとに、枠と文字の縁を印刀で整え、線の太さをそろえる工程です。ここを職人が行うと、印影の線に張りが出て、枠が欠けにくくなります
  • 彫る前の印影を、見せてもらえるか字入れを職人が行う店は、彫る前に印影の案を見せられます。当店では注文画面の「印影のご確認」で「確認する」を選ぶと、2〜3日後にメールで印影をお送りします

当店の印鑑は、京都府認定の伝統工芸「京印章」の制作士である池上翠雲が、印影のデザインから彫刻、仕上げまでを担当しています。同じ名前でも、字の画数と形に合わせて線の太さと配置を決めますので、同じ印影にはなりません。京都府印章業協同組合は、京印章の制作を印稿の作成、印面の修整、布字、荒刻、仕上げ、捺印の6つの工程で説明していて、当店もこの流れで制作しています。

手彫りの印鑑を選ぶ3つの理由

同じ印影が、世の中にない字を職人が作るから

実印と銀行印は、届け出た印影と照らし合わせて本人かどうかを確かめる印鑑です。同じ名前で同じ印影ができる可能性がある印鑑は、この役割に向きません。職人が字を作った印鑑は、その1本だけの印影になります。

名前に合わせて、線と枠が整う仕上げを職人がするから

画数の多い字は線を細く、少ない字は太く。文字が枠に接する場所を決めて、枠が文字で支えられるようにします。押したときに線がかすれにくく、枠が欠けにくい印影になります。

何十年も使い、欠けても直せる作った職人がいるから

実印は一度登録すれば、住まいの購入から相続まで何十年も使います。当店でお作りした印鑑は5年間の保証で修理や彫り直しに対応し、その後もご相談を承っています。

印材の決め方|刀の入りやすさと欠けにくさで

職人が彫る印鑑では、印材は「刀がどう入るか」でも選びます。柘の木は刀が素直に入り、水牛の角は粘りがあって細い線が欠けにくく、象牙は古くから印材の王様と呼ばれるほど彫りに向いています。チタンは印刀で彫るには硬すぎる金属で、一般に彫刻機で彫りますので、手彫りの風合いを求める方は柘、水牛、象牙からお選びください。

薩摩本柘の印材
薩摩本柘木の印材の定番

鹿児島産の柘の木で、木の印材ではいちばん硬く目が詰まっています。刀が素直に入り、細い線もきれいに立ちます。押したあとに朱肉を拭き、直射日光を避けて保管すれば長く使えます。

実印15mm 11,900円 / 3本セット 25,200円
  • 刀の入りやすさ
  • 欠けにくさ
  • 価格の手ごろさ
黒水牛の印材
黒水牛いちばん選ばれています

水牛の角で、粘りがあって枠が欠けにくく、朱肉の油にも強い印材です。漆黒の艶があり、どの年代の方が持っても落ち着いて見えます。実印と銀行印に多く選ばれています。

実印15mm 15,300円 / 3本セット 30,200円
  • 刀の入りやすさ
  • 欠けにくさ
  • 価格の手ごろさ
白水牛の印材
白水牛1本ごとに表情が違う

明るい色の水牛の角で、硬さと粘りは黒水牛と同じです。透明感のある白に朱肉の赤が映えます。模様のないものは採れる量が少なく、柄のあるものより高くなります。

実印15mm 20,400円(柄)・30,000円(無地) / 3本セット 44,200円(柄)
  • 刀の入りやすさ
  • 欠けにくさ
  • 価格の手ごろさ
本象牙(標準)の印材
本象牙彫りに最も向く印材

刀の入りと朱肉のなじみがよく、何十年も使えるとされる印材です。当店は経済産業省の認定を受けた象牙の取扱店で、標準、特上、極上の3つのランクをご用意しています。

実印15mm 36,100円(標準) / 3本セット 83,300円(標準)
  • 刀の入りやすさ
  • 欠けにくさ
  • 価格の手ごろさ

迷ったら黒水牛です。欠けにくさと価格のつり合いがよく、当店でいちばん多く選ばれています。費用を抑えて3本をそろえたい方は薩摩本柘、節目の記念や贈り物には白水牛や象牙が選ばれています。

書体の決め方|実印と銀行印は読みにくく、認印は読みやすく

職人が字を作る印鑑では、書体は「どの書体をもとに字を作るか」の指定です。同じ書体を選んでも、名前によって線の太さや配置は変わります。同じ名前を4つの書体で彫った見本を並べました。

吉相体で彫った実印の印影見本
吉相体きっそうたい・印相体文字を枠まで広げ、枠が文字で支えられる書体。欠けにくく、まねしにくい印影に。実印と銀行印に
篆書体で彫った実印の印影見本
篆書体てんしょたいお札の「総裁之印」にも使われる格式のある書体。線の太さがそろい、読みにくいので実印と銀行印に
古印体で彫った印鑑の印影見本
古印体こいんたい丸みと墨だまりのある、日本生まれの書体。名前がすぐ読めるので認印に
隷書体で彫った印鑑の印影見本
隷書体れいしょたい横に平たく端正な書体。読みやすさと落ち着きを両方ほしい認印に

実印と銀行印は、他人が読みにくく、まねしにくい吉相体か篆書体をおすすめしています。認印は、受け取った相手が名前を読める古印体や隷書体が向いています。楷書体や行書体という選択肢もありますので、7つの書体の違いは印鑑の書体一覧で見比べてください。

サイズと本数の決め方|名前の文字数と、届け出る本数で

サイズは、彫る名前の文字数と、ほかの印鑑との差で決めます。実印は市区町村の登録の条件として、京都市では印影が8mm四方より大きく25mm四方に収まることが定められていて、当店の実印13.5〜18mmはどれも収まります。実印をいちばん大きく、銀行印を1段小さく、認印をさらに小さくすると、ケースの中で迷いません。

種類彫る名前直径の目安こんな方は1段大きく
実印フルネームが一般的。姓だけ、名だけでも登録できます男性15mm〜16.5mm、女性13.5mm〜15mmフルネームが5文字以上、画数の多い字が続く
銀行印姓だけ、または名だけ。結婚で姓が変わる方は名だけに12mm〜13.5mm実印と同じ直径にならないように
認印姓だけ10.5mm〜12mm契約書に押す機会が多い

実印だけを作る方より、実印と銀行印を一緒に作る方のほうが多くいらっしゃいます。届け出る2本を同じ職人が同じ時期に作ると、印影の雰囲気がそろいながら、直径と書体で見分けられます。3本セットは単品でそろえるより安く、黒水牛なら単品の合計31,800円が30,200円になります。

注文から届くまでの流れ

  1. 1用途、印材、直径を選ぶ

    実印、銀行印、認印、またはセットを選び、印材と直径を決めます。

  2. 2名前と書体を入力する

    姓、名、フルネームのどれかと書体を選びます。旧字体は住民票のとおりに備考欄でお知らせください。

  3. 3職人が印影をデザインする

    名前の字の形と画数を見て、線の太さ、配置、枠との接し方を決めます。

  4. 4印影を確かめる

    「印影のご確認」を「確認する」にした方には、2〜3日後にメールで印影をお送りします。ご覧いただいてから彫刻に進みます。

  5. 5彫刻し、仕上げ、検品する

    印材に彫刻し、枠と文字の縁を整え、試し押しをして検品します。ご注文から3〜7営業日で発送します。

  6. 6お届け

    牛革ケース、朱肉、押印マット、保証書、京印章証明書を添えてお届けします。送料無料、5年保証です。

伝統工芸職人 池上翠雲が作業台で印鑑を制作している様子
京印章制作士 池上翠雲

印影のデザインから彫刻、仕上げまで、同じ職人が担当します

京印章は、京都府が伝統的工芸品として認定している印章です。京都府の案内によれば、印章が日本で使われはじめたのは大宝律令の時代で、京都では役所の官印から天皇御璽まで多くの印章が作られてきました。当店はその技術を受け継ぐ「京印章制作處」として認定され、職人の池上翠雲は篆刻家の故 村上石堂氏に師事し、昭和59年の入店から40年、京都で印鑑を彫り続けています。

お名前の字の形を見て1本ごとに配置を決めますので、同じお名前でも同じ印影にはなりません。対象の商品には京印章証明書をお付けしています。

伝統工芸 京印章について

よくある質問

手彫りの印鑑は、押した印影で見分けられますか

ある程度は見分けられます。職人が字を作った印鑑は、画数に合わせて線の太さが変わり、文字が枠に接する場所も名前ごとに違います。フォントをそのまま彫った印鑑は、線の太さが均一で、どの文字も枠から同じだけ離れています。ただ、1本の印影だけで確実に判断するのは難しく、注文の前に「字をだれが作るのか」を店に確かめるほうが確かです。

手彫りの印鑑は、納期がどれくらいかかりますか

当店ではご注文から3〜7営業日で発送しています。彫る前の印影確認を付けると、確認のやり取りの分だけ2〜3日加わります。すべての工程を手で行う店では、1本に数週間かかることもあります。使う日が決まっている方は、ご注文の前に日付を添えてご相談ください。お急ぎの場合は翌日発送できることもあります。

手彫りの印鑑は、登録や届け出で有利になりますか

手続きの上で有利になることはありません。市区町村の印鑑登録も金融機関の届出印も、彫り方は問われません。ただ、京都市のように量産されている印鑑は登録できないと案内する市区町村があり、職人が字を作った印鑑ならその心配がありません。有利というより、同じ印影がほかにない安心を買うものと考えてください。

親から受け継いだ印鑑を、彫り直してもらえますか

印材の状態によっては、印面を削って新しく彫り直す「改刻」ができます。象牙や水牛の印鑑は改刻に向いています。ただし、登録や届け出をしていた印鑑は、彫り直すと印影が変わりますので、登録の廃止や改印の手続きが要ります。詳しくは親から受け継いだ印鑑は使える?をご覧ください。

まとめ|呼び名ではなく、字をだれが作るかで選ぶ

手彫りと呼ばれる印鑑は、字入れ、荒彫り、仕上げのどこまでを人の手で行うかで、手彫り、手仕上げ彫り、機械彫りに分かれます。店の呼び名は協会の定義と一致しているとは限りませんので、彫る字をだれが作るのか、仕上げをだれがするのか、彫る前の印影を見せてもらえるのかの3つを確かめてください。印材は刀の入りやすさと欠けにくさで黒水牛か薩摩本柘から、書体は実印と銀行印を吉相体か篆書体に、サイズは名前の文字数で決めます。当店では、京印章制作士の池上翠雲が印影のデザインから彫刻、仕上げまでを担当し、実印は薩摩本柘10,700円から、3本セットは21,700円からお作りしています。

京印章制作士が、印影のデザインから仕上げまで担当

印材から、職人の印鑑を選ぶ

お名前の字の形に合わせて、線の太さと配置を1本ごとに決めます。彫る前の印影確認にも対応。牛革ケース、朱肉、押印マット、保証書、京印章証明書付き。送料無料、5年保証。価格は実印15mmのものです。

実印・銀行印・認印の3本セットにする同じ職人が同じ時期に作り、直径と書体で見分けます。薩摩本柘 21,700円〜、黒水牛 24,300円〜3本セットへ

SOURCES

出典

彫刻の工程の呼び方と「手彫り仕上げ」の表示についての注意は公益社団法人全日本印章業協会の資料、京印章の制作工程は京都府印章業協同組合の案内、京印章の歴史と認定は京都府の案内、印鑑登録できない印鑑の条件は京都市の案内を参照しました。店ごとの彫り方の呼び方は一般的な傾向について述べたもので、特定の店を評価するものではありません。価格は当店の税込価格で、記事作成時点のものです。

  1. 公益社団法人全日本印章業協会. 彫刻作業工程の定義. https://www.inshou.or.jp/inshou/common/pdf/2024sagyoukouteihyou.pdf,(参照 2026-09-24).
  2. 公益社団法人全日本印章業協会. 消費者の皆さまへ(「手彫り仕上げ」の表示について). https://www.inshou.or.jp/inshou/common/pdf/2024teborishiage.pdf,(参照 2026-09-24).
  3. 京都府印章業協同組合. 京印章について. 京都府印章業協同組合ウェブサイト. https://www.kyoinsho.com/about.html,(参照 2026-09-24).
  4. 京都府. 京印章[京都府の伝統的工芸品等]. 京都府ウェブサイト. https://www.pref.kyoto.jp/senshoku/1272266181763.html,(参照 2026-09-24).
  5. 京都市. 印鑑登録. 京都市情報館. https://www.city.kyoto.lg.jp/bunshi/page/0000147302.html,(参照 2026-09-24).