CHAPTER 16 印鑑の贈り物・マナー
親から受け継いだ印鑑は使える?改刻で思い出を残す方法と注意点
親の印鑑をそのまま自分の実印や銀行印にすることは、氏名が同じでない限りできません。実印・銀行印・認印ごとにそのまま使えるかを整理し、亡くなった親の実印が相続でどう扱われるか、印面を削って自分の名前に彫り直す「改刻」の流れと向く印材、象牙を受け継ぐときの決まり、改刻と新調のどちらを選ぶかの判断、形見として残す方法までまとめました。
公開日: 2026年9月24日
親の遺品を整理していると、桐箱や革のケースに入った印鑑が出てきます。象牙や水牛の立派な印鑑ほど、「自分の実印として使えないだろうか」「せめて形見として何かに生かせないか」と考える方は多くいらっしゃいます。この記事では、親の印鑑をそのまま使えるかどうかを実印・銀行印・認印の種類ごとに整理し、亡くなった親の実印が相続でどう扱われるか、印面を削って自分の名前に彫り直す「改刻」の流れと向く印材、象牙を受け継ぐときの決まり、改刻と新しく作るのとどちらがよいかの判断まで、順に説明します。
親の印鑑をそのまま自分の実印や銀行印にすることは、彫られた氏名が自分と同じでない限りできません。実印は本人の氏名を彫った印鑑を本人が登録するもので、京都市では同一世帯員がすでに登録した印鑑も登録できません。姓だけの認印なら、同じ姓の子どもがそのまま使えます。象牙や水牛の印材を形見として生かしたい場合は、印面を削って自分の名前に彫り直す「改刻」という方法があります。ただし印材の状態によっては難しいので、思い出は親の印鑑をそのまま残し、自分の実印は新しく作るのが最も確実です。
そのまま使えるかは、印鑑の種類で決まる
「親の印鑑」といっても、実印・銀行印・認印では扱いがまったく違います。彫られている名前と、どこに届け出る印鑑かで分けて考えてください。
実印
- そのまま使えるか
- 使えません。登録は本人の氏名の印鑑に限られ、同一世帯員が登録済みの印鑑も不可
- 親が亡くなったとき
- 住民登録の消除とともに印鑑登録も抹消され、印鑑証明書は取れなくなります
- 生かす方法
- 改刻して自分の名前で登録し直す。または形見として保管
銀行印
- そのまま使えるか
- 親の口座は相続手続きで解約されます。姓だけの印鑑なら自分の口座に届け出ることはできますが、家族と印影が同じになります
- 親が亡くなったとき
- 相続手続きでは相続人の実印と印鑑証明書を使います。親の銀行印を押す場面はほぼありません
- 生かす方法
- 改刻して自分の銀行印に。防犯上は新しく作るほうが確実
認印
- そのまま使えるか
- 姓だけの認印なら、同じ姓の子どもがそのまま使えます
- 気をつけたいこと
- 古い印材は印面が欠けていることがあります。押して印影を確かめてください
- 生かす方法
- 日常の認印として使い続ける。実印や銀行印には流用しない
実印・銀行印・認印の役割の違いは実印とは?銀行印・認印との違いと登録までの流れで説明しています。家族で同じ印鑑を使い回すことの問題点は夫婦で印鑑を共有してもいい?にまとめています。
亡くなった親の実印は、相続で役目を終える
親が亡くなると、住民登録が消除され、それにともなって印鑑登録も職権で抹消されます。印鑑登録証明書はもう発行されませんので、親の実印を押しても「実印」としての効力はありません。相続の手続きで使うのは、相続人であるあなた自身の実印と印鑑登録証明書です。遺産分割協議書や不動産の相続登記、預金の払い戻しなど、実印が要る場面が続きますので、自分の実印を持っていない方は、このタイミングで作って登録しておくことになります。実印が必要になる場面は実印はいつ必要?車・住宅・相続など使う場面を整理をご覧ください。
生前に親の実印を預かっていても、本人の意思によらずに押した書類は、あとでその効力が争われることがあります。相続に関わる書類はすべて相続人自身の実印で進めるのが原則です。親の実印は、手続きが終わるまでケースに入れたまま保管しておいてください。
改刻とは。印面を削って、新しい名前を彫り直すこと
「改刻(かいこく)」は、彫ってある印面を削り落として平らにし、そこに新しい名前を彫り直すことです。親の印材そのものを使い続けられますので、「形見を自分の実印にしたい」という希望をかなえる方法として古くから行われてきました。流れは次のとおりです。
- 01印材の状態を見るひび、欠け、反り、乾燥の具合を確かめます。ここで改刻できるかが決まります
- 02印面を削って平らにする彫ってある文字が消えるまで削ります。印材は数ミリ短くなります
- 03新しい名前で印面を設計する直径は変えられませんので、その直径に合わせて文字数と書体を決めます
- 04職人が彫刻し、印影を確かめる新しい印鑑と同じように彫り、押した印影を確認してから納めます
気をつけたいのは、改刻は印材を削る作業なので、元に戻せないことです。親が彫った文字は消えます。「親の名前の印影を残したい」なら、改刻の前に一度きれいに押して、印影を紙に残しておいてください。
改刻に向く印材、向かない印材
改刻できるかどうかは、印材の種類と状態で決まります。何十年も前の印鑑は、保管の状態によって乾燥やひびが進んでいることがあります。
| 印材 | 改刻の向き不向き | 理由と注意点 |
|---|---|---|
| 本象牙 | 最も向いています | 目が細かく丈夫で、削り直しても印面がきれいに整います。親の代の象牙は今では手に入りにくい上質なものが多く、改刻の価値があります |
| 黒水牛・白水牛 | 向いています | 削り直せます。ただし角の印材は乾燥でひびが入っていることがあり、ひびが印面にかかると彫れません |
| 柘(つげ)などの木製 | 状態によります | 古い木材は乾燥で反りや割れが出やすく、削ると木目が欠けることがあります。認印として使い続けるほうが向いています |
| チタン・金属 | 店によります | 専用の設備が要るため、受け付けない店が多くあります |
| 既製の三文判・プラスチック | 向きません | 印材としての価値がなく、改刻するより新しく作るほうが安く済みます |
もうひとつ、直径は変えられないことを覚えておいてください。親の実印が18mmなら、改刻後も18mmです。名のみで彫ると余白が大きくなりますので、フルネームで彫るか、文字を太めに設計する必要があります。逆に親の銀行印が12mmなら、フルネームは収まりにくくなります。
象牙の印鑑を受け継ぐときの決まり
象牙は「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」で取引が規制されていますが、環境省の案内では、登録が必要なのは全形を保持した象牙(一本まるごとの牙)で、印鑑のような製品を個人が持ち続けたり相続したりすること自体に手続きは要りません。改刻して自分の印鑑にすることも問題ありません。
- 相続して手元に置いておくこと
- 認印として使い続けること
- 改刻して自分の実印や銀行印にすること
- 家族に譲ること(一回限りの譲渡)
- 象牙の印材や製品を反復継続して取引すると、個人でも特別国際種事業者の登録が必要です
- 相続品を一回限り売る場合は除かれていますが、判断に迷う場合は環境省か経済産業省に確かめてください
- 象牙の印鑑を扱う店は、事業者登録をしているかどうかを確かめられます
当店は経済産業省認定の象牙取扱店で、新しくお作りする象牙の印鑑には認定証を添えています。象牙の等級や切り方の違いは象牙の印鑑についてで説明しています。
改刻するか、新しく作るか
結論思い出を最優先するなら改刻、実印として何十年も使うなら新しく作る
改刻が向いている場合
- 親の象牙や水牛の印材を、自分の印鑑として使い続けたい
- 印材にひびや欠けがなく、直径が自分の用途に合っている
- 親の名前の印影は紙に残しておけばよいと思える
- 形見を「しまっておく」より「使う」ことに意味を感じる
新しく作るのが向いている場合
- 親の印鑑を親の名前のまま形見として残したい
- 印材が乾燥していたり、直径が用途に合わなかったりする
- 相続手続きで実印がすぐに要る(改刻は状態確認の分だけ日数がかかる)
- 親と同じ素材・同じ書体で作れば、それも受け継ぎ方のひとつになる
実際には、親の印鑑はそのまま桐箱に残し、自分の実印は新しく作る方がほとんどです。親が象牙の実印を使っていたなら、自分も象牙で作る。親と同じ篆書体で彫る。そうした選び方も、印材を削らずに受け継ぐ方法です。素材の比較は実印の素材はどう選ぶ?をご覧ください。改刻をお考えの場合は、印材の種類と直径、ひびや欠けの有無を添えてお問い合わせください。状態によってはお受けできないことがあります。
形見として残すときの保管
親の印鑑を親の名前のまま残す場合は、印面をきれいに拭いてから桐箱に入れ、直射日光と乾燥を避けて保管してください。象牙や水牛は急な乾燥でひびが入ります。革のケースに入れたままでも構いませんが、朱肉が付いたままだと印面が固まりますので、柔らかい布で拭き取っておきます。親の印影を一度きれいな紙に押して、印鑑と一緒に桐箱に収めておくと、印材の文字が読みにくくなっても印影で残ります。
受け継いだ認印をそのまま使うときの注意
親と同じ印鑑を銀行印にしない同居の家族と印影が同じだと、口座の管理で誰の届出印か分からなくなります。全国銀行協会の案内では、届出印の変更は窓口で改印の手続きをすればできますので、自分の銀行印は別に用意してください。
欠けた印面で届出や登録をしない古い印材は縁が欠けていることがあります。欠けた印影で登録すると、あとで押した印影と照合できなくなることがあります。
親の氏名が彫られた印鑑を自分の書類に押さない姓だけの認印なら問題ありませんが、フルネームの印鑑は名前が違えば自分の印鑑にはなりません。
よくある質問
親と同姓同名です。親の実印をそのまま登録できますか
彫られた氏名は同じでも、京都市では同一世帯員がすでに登録している印鑑は登録できません。親が亡くなって登録が抹消されたあとに登録できるかは自治体によって扱いが異なりますので、住民登録のある市区町村に確かめてください。登録できたとしても、親の名義で押された古い書類と印影が同じになりますので、新しく作るほうが安心です。
改刻すると印材はどのくらい短くなりますか
彫ってある文字の深さぶんを削りますので、数ミリ程度です。一度の改刻で持ちにくくなることはありませんが、繰り返すと短くなっていきます。改刻は基本的に一度きりと考えてください。
祖父母の代の象牙の印鑑が出てきました。売れますか
相続品を一回限り売る場合は事業者登録の対象から除かれていますが、買い取る側は登録事業者である必要があります。詳しくは環境省の案内を確かめてください。手放すより、改刻して家族の誰かの印鑑にするか、そのまま残すことをおすすめします。
親の印鑑と同じ素材・書体で作ってもらえますか
できます。素材の種類が分からない場合は、写真をお送りいただければ見当をお伝えします。書体は親の印影を見せていただければ、同じ系統の書体で印面を設計します。彫刻前に印影をご確認いただけます。
まとめ|認印は使える。実印と銀行印は改刻か新調で
親から受け継いだ印鑑は、姓だけの認印なら同じ姓の子どもがそのまま使えますが、実印は本人の氏名の印鑑を本人が登録するものなので、そのままでは使えません。親が亡くなると印鑑登録は抹消され、相続の手続きはあなた自身の実印で進めます。
象牙や水牛の印材を形見として生かしたいなら、印面を削って自分の名前に彫り直す改刻という方法があります。ひびや欠けがなく、直径が用途に合っていれば可能ですが、元には戻せません。親の印鑑はそのまま桐箱に残し、自分の実印は親と同じ素材や書体で新しく作る。それが、印材を削らずに受け継ぐいちばん確実な方法です。