CHAPTER 14 京印章・京都

京印章とは?京都の伝統工芸の歴史・特徴と職人の技

京印章(きょういんしょう)とは、京都で受け継がれてきた技術で作る印章のことで、京都府の伝統工芸品です。平安京の官印から明治の天皇御璽までの歴史と、漢の時代の印にならった重厚な字を紹介します。職人の3つの技、6つの制作工程、地域団体商標と京印章証明書も、はじめての方に向けて説明します。

公開日: 2026年9月24日

京町家の格子窓から光が差す仕事場。欅の低い机に、引き出しの付いた道具箱、無地の和紙の束、ふた付きの朱肉の壺、藍色の布に並べた印刀、黒水牛と柘の印材、桐箱、椿を挿した竹の花入れが置かれている
京都の伝統工芸 1200年の都で磨かれてきた、印章づくりの技です

印鑑を作ろうと調べていて、「京印章」という言葉を目にした方もいるでしょう。西陣織や清水焼に比べると、名前を聞く機会の少ない工芸品かもしれません。けれども印章づくりの歴史は長く、国の文書に押す天皇の印も、明治時代に京都の職人が彫ったものです。この記事では、京印章とは何か、ほかの印鑑とどこが違うのかを、歴史、字の特徴、職人の技の順にお話しします。

先に結論

京印章とは、京都で受け継がれてきた伝統の技術で作る印章のことです。京都府が伝統工芸品に指定しており、「京印章」の名前は特許庁の地域団体商標に登録されています。中国の漢の時代の印にならった、どっしりとして味わいのある字が特徴です。実印、銀行印、会社印といった、ふだん使う印鑑として注文できます。

京印章とは|京都で受け継がれてきた印章づくり

印章店の組合である京都府印章業協同組合は、京印章を「京都で作られた伝統と技術を継承する印章」と定義しています。特定の素材や形を指す言葉ではありません。柘(つげ)でも水牛の角でも、京都の職人が伝統の技法で彫ったものが京印章です。

「京印章」という名前は、平成19年に特許庁の地域団体商標として登録されました。地域団体商標とは、「西陣織」や「京友禅」のように、地域名と商品名を組み合わせた産地の呼び名を守る制度です。登録されている内容は「京都産の印章」と「京都における印章の彫刻」で、権利を持つのは京都府印章業協同組合です。京都府も、京印章を府の伝統工芸品に指定しています。

どこで京都の印章店と職人が作ります
だれが印章彫刻の技能検定に合格した技能士などの職人です。京都府によると、60人あまりが活躍しています
何を柘、水牛、象牙などを素材に、実印、銀行印、認印、会社印を彫ります

京印章の歴史|官印から天皇御璽、町の印判師へ

京都が印章の本場になったのは、長く都が置かれ、印を使う役所や寺社、商人が集まっていたからです。

  1. 飛鳥〜奈良時代
    印章が国の制度になる

    中国で発達した印章が日本に伝わったのは、聖徳太子の時代といわれています。大宝元年(701年)に大宝律令が定められると、役所の文書に印を押す決まりができました。

  2. 平安時代
    都で官印が作られる

    平安京が開かれると、京都では天皇の印である御璽(ぎょじ)や、役所の官印が作られるようになりました。このころの印は、ほとんどが溶かした銅を型に流し込んで固める「鋳造」でできていました。寺社に伝わる印のなかには、この時代のものも残っています。

  3. 鎌倉〜戦国時代
    書画の印、武将の印が広まる

    宋との行き来がさかんになり、書や絵に作者が押す落款印が流行しました。戦国時代になると、武将や商人のあいだで、自分の名を彫った印が使われるようになります。

  4. 江戸時代
    印判師が生まれる

    庶民も印を使うようになって注文が急に増え、印を彫ることを仕事にする印判師(いんばんし)が現れます。日本で最初の印判師は、京都の三条室町あたりに住んでいたと伝わります。

  5. 明治時代
    庶民も実印を使えるようになる

    明治6年10月1日の太政官布告で、庶民にも実印の使用が認められました。10月1日が「印章の日」とされているのは、このためです。明治23年には京都の印章店が集まって「京都板面彫刻業組合」をつくり、これがいまの京都府印章業協同組合につながっています。

国の文書に押される印も、京都の職人が作りました

法律の公布や勲章の授与など、国の大切な文書には「天皇御璽」と「大日本国璽」が押されます。いま使われている2つの印は、明治7年に国の命を受けて作られました。彫ったのは、京都の中京に住んでいた安部井櫟堂(あべいれきどう)です。

明治7年京都の安部井櫟堂が、印を作る役目に任じられました
1年完成までに1年かかりました
純金 約4.5kg1リットルの牛乳パック4本半ほどの重さです

京都府によると、その前の御璽と国璽を作ったのも、京都の中村水竹でした。

毎年秋には、京都の下鴨神社で印章祈願祭が開かれ、印章にたずさわる人たちが集まります。京都の印章づくりは、いまも伝統産業として続いています。

京印章の特徴|漢の時代の印にならった、重厚な字

京都府の紹介によると、京印章は、中国・漢の時代に作られた印の作風を受け継いでいます。漢の時代は印章がもっともさかんに作られた時期で、このころの銅の印を「漢印」と呼びます。京印章には、漢印に使われた「漢印篆(かんいんてん)」という字を主に使った、重厚で味わいの深い印が多くあります。特許庁の紹介でも、関東の印章とは作風が対照的だとされています。

お札の表に押されている総裁之印の印影
お札の表にある「総裁之印」の字は、篆書体です。京印章でよく使われる漢印篆も、この篆書体の一種です。

漢印篆は、篆書体のなかでも、印の四角い枠にきちんと収まるように形を整えた字です。線の太さがそろい、縦と横の線がまっすぐで、字の中のすき間が均等になります。流れるような曲線の字とは違い、どっしりと落ち着いて見えます。読みにくいぶん、まねをされにくいという利点もあります。

いまの京印章は、古い作風を守るだけではありません。京都府の紹介では、字の意味をこわさない範囲で自由に工夫した、現代的な印章も数多く生まれているそうです。当店では、篆書体のほかに吉相体(印相体)、古印体、隷書体など、7つの書体からお選びいただけます。それぞれの見た目は、印鑑の書体一覧で比べられます。

京印章の職人の技|字法・章法・刀法の3つ

京都府印章業協同組合は、印章づくりの極意として3つの「法」を挙げています。字を選ぶ、字の配置を決める、彫る、という制作の順番に沿った技です。

字法じほう

正しい字を選ぶ技です。篆書、隷書、楷書、行書と、書体ごとに決まった字の形があります。篆書は2000年以上前に使われていた字なので、字典で1字ずつ確かめ、誤った形を彫らないようにします。

章法しょうほう

選んだ字を、印面にどう収めるかを決める技です。字の大きさのつり合いや線の太さ、余白を考えて、印稿(いんこう)と呼ぶ設計図を描きます。同じ名前でも職人によって印影が変わるのは、この章法が違うからです。

刀法とうほう

印刀(いんとう)という小刀で彫る技です。柘、水牛、象牙と、素材ごとに硬さも粘りも違います。刃の切れ味を保ち、線の勢いをそこなわないように彫り進めます。

京印章ができるまで|6つの工程

京都府印章業協同組合によると、京印章は次の6つの工程で作られます。

  1. 1印稿作成

    使う目的に合った書体と字の形を選び、紙の上で何度も練り直して、印影の設計図を作ります。

  2. 2印面修整

    印材に傷やゆがみがないかを調べ、彫る面に朱を塗って、平らに整えます。

  3. 3布字(字入れ)

    印稿をもとに、印面に墨で字を書き入れます。押したときに正しく読めるよう、左右を逆にして書きます。

  4. 4荒刻

    書き入れた字を残して、まわりを彫り下げます。深さがそろうように彫るのがこつです。

  5. 5仕上げ

    筆で書いた字の勢いが伝わるように、線の1本1本を印刀で整えます。

  6. 6捺印

    朱肉を軽くたたくようにして、印面にむらなく付け、紙に押して出来ばえを確かめます。

工程のどこまでを手仕事で行うかによって、印鑑の彫り方は手彫り、手彫り仕上げ、機械彫りに分かれます。違いは印鑑の手彫りと機械彫りの違いで説明しています。

京印章は、ふだん使う実印や銀行印として注文できます

伝統工芸と聞くと、飾っておく美術品を思い浮かべるかもしれません。京印章は、暮らしや仕事の場面で使う道具です。実印として市区町村に登録でき、銀行の届出印にも、会社の登記に使う印鑑にもなります。

実印を作るとき住宅ローンや車の登録、相続の手続きに使う印鑑です。長く使うからこそ、作り手のはっきりした1本を選びたい方に向いています
成人や就職、結婚のお祝いに京都の工芸品として贈れます。成人祝いの印鑑を京都で作るもご覧ください
会社を作るとき会社の実印、銀行印、角印の3本をそろえる場面です。創業の記念に、京都で彫った印章を選ぶ方もいらっしゃいます

当店は「京印章制作處」として認定を受けています

京印章制作處の認定証
京都・伏見で100年

職人は「京印章制作士」、店は「京印章制作處」

京印章を制作して販売するには、審査に合格しなければなりません。当店ダルマ屋印房の職人、池上翠雲は「京印章制作士」の認定を受けています。店も、京印章の販売を認められた「京印章制作處」です。池上は京都の生まれで、篆刻家の故・村上石堂氏に学び、昭和59年に入店してから40年以上、印鑑を彫り続けています。

当店は大正15年に伏見稲荷の麓で創業しました。通常の印鑑には、京印章であることを示す「京印章証明書」をお付けしています。

伝統工芸 京印章について

よくある質問

京印章は、ふつうの印鑑より高いのですか

当店の価格は、素材と大きさで決まります。京印章証明書が付く通常の印鑑でも、薩摩本柘なら実印は10,700円からです。実印・銀行印・認印の3本セットは21,700円からご用意しています。

京都に住んでいなくても、注文できますか

はい、全国どこからでもご注文いただけます。インターネットで承り、京都で制作してお届けします。送料は無料です。京都にお越しの際は、伏見の店舗にもお立ち寄りください。

京印章証明書は、どの印鑑に付きますか

開運印鑑ではない、通常の個人印鑑と会社印鑑に付きます。本象牙の印鑑には京印章証明書に代えて象牙認定書を、開運印鑑には鑑定書をお付けしています。

京印章の書体は、篆書体だけですか

昔ながらの京印章は篆書体(漢印篆)で彫ることが多いものの、書体に決まりはありません。当店では、読みやすさが大切な認印には古印体や隷書体をおすすめしています。用途に合わせてお選びください。

「印章」と「印鑑」は、違うものですか

もともと「印章」は彫った本体を、「印鑑」は役所や銀行に登録・届け出をした印影を指す言葉です。いまは、どちらも本体の意味で使われています。詳しくは印鑑・印章・はんこの違いとは?をご覧ください。

まとめ|京印章の印鑑を作るときに決める順番

京印章で作るときは、次の順に決めていきます。まず、どの印鑑を作るかを決めます。実印だけでよいのか、銀行印や認印も一緒にそろえるのかで、選ぶ商品が変わります。次に素材を選び、最後に書体を決めます。京印章らしい重厚な字にするなら篆書体、読みやすさを大切にする認印なら古印体や隷書体が候補になります。

大きさや素材の選び方は、印鑑の選び方で詳しく説明しています。新しく作る機会に、京都の職人が彫る1本をご検討ください。

京都・東山の街並みと八坂の塔
京印章制作處 ダルマ屋印房

京都の職人が彫る印鑑を、全国へお届けします

京印章制作士が、お名前に合わせて1本ずつ制作します。印鑑ケース付き、送料無料、5年保証。通常の印鑑には京印章証明書をお付けします。

SOURCES

出典

京印章の歴史と特徴は京都府と京都府印章業協同組合の案内を、地域団体商標は特許庁の登録案件の紹介を、お札の印章の書体は国立印刷局の案内を参照しました。当店の認定と証明書については、当店の情報です。

  1. 京都府. 京印章[京都府の伝統的工芸品等]. https://www.pref.kyoto.jp/senshoku/1272266181763.html,(参照 2026-09-22).
  2. 京都府印章業協同組合. 京印章とは. https://www.kyoinsho.com/about.html,(参照 2026-09-22).
  3. 経済産業省 特許庁. 商標登録第5015715号 京印章(きょういんしょう). 地域団体商標登録案件一覧. https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/chidan/shoukai/ichiran/5015715.html,(参照 2026-09-22).
  4. 独立行政法人 国立印刷局. お札に関するよくあるご質問. https://www.npb.go.jp/product_service/intro/faq.html,(参照 2026-09-22).