CHAPTER 16 印鑑の贈り物・マナー
形見の印鑑はどうする?残す・改刻する・供養する3つの方法
亡くなった親御さんやお祖父様・お祖母様の印鑑は、「そのまま残す」「印面を彫り直す改刻」「神社に納める供養」の3つから行き先を決めます。相続の手続きが終わるまでの故人の実印・銀行印の扱い、印影の残し方、改刻に向く印材、下鴨神社の印章祈願祭への納め方、自分で処分する手順を説明します。
公開日: 2026年9月26日
遺品を整理していると、たんすの奥や仏壇の引き出しから、桐箱や革のケースに入った印鑑が出てくることがあります。象牙や水牛の立派な実印、使い込まれた銀行印、姓だけの小さな認印。「捨てるのは忍びないけれど、このまま持っていてよいのだろうか」と手が止まってしまう方もいらっしゃいます。この記事では、まず相続の手続きが終わるまでの扱いを整理します。そのうえで、形見の印鑑を残す・改刻する・供養する3つの方法について、手順と向き不向きを説明します。故人の印鑑をご自身の実印や銀行印として使えるかどうかは、親から受け継いだ印鑑は使える?で詳しく説明しています。
相続の手続きが終わるまでは、手を付けずにケースに入れたまま保管してください。行き先はそのあとで、印材の状態とご家族の気持ちに合わせて「残す・改刻する・供養する」から選びます。故人の実印は、亡くなると印鑑登録証明書(印鑑証明書)が取れなくなり、役目を終えます。相続の書類に押すのは、相続人であるご自身の実印です。象牙や水牛で状態のよい印材なら、ご自身の名前に彫り直して使い続ける「改刻」ができます。手元に置かないと決めたときは、京都の下鴨神社で毎年行われる印章祈願祭に納める方法があります。どれを選ぶ場合も、先に故人の印影をきれいな紙に押しておいてください。
まずは、相続の手続きが終わるまでそのまま残す
印鑑が出てきた直後にしてよいのは、「ケースに入れたまま、どこにあるかをご家族で共有する」ことだけです。相続の手続きが終わるまでは、削ったり神社に納めたりしないでください。時期ごとの扱いは次のとおりです。
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亡くなった直後
印鑑の置き場所を確かめ、ご家族に伝える
実印、銀行印、認印がそれぞれどこにあるかを確かめます。通帳や印鑑登録証(カード)と一緒に見つかることもあります。まとめて1か所に保管し、ご家族の誰が預かるかを決めておきます。
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相続の手続き中
故人の印鑑は押さない。使うのは相続人の実印
全国銀行協会の案内では、名義人が亡くなったと金融機関に伝えた時点で、その口座の取引は原則として制限されます。預金の払い戻しに要るのは遺産分割協議書や相続人全員の印鑑証明書などで、故人の銀行印を押す場面はほぼありません。ただし金融機関によっては通帳や届出印を求められることがあるので、手続きが終わるまで手放さないでください。
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手続きが終わったら
印影を紙に残してから、行き先を決める
口座の解約や名義変更、不動産の登記が終われば、故人の印鑑は手続きに使わない記念の品になります。ここで初めて、残す・改刻する・供養するのどれにするかを考えます。決める前に、印影を一度きれいな紙に押しておいてください。
印鑑登録は、本人の住民登録と結びついた制度です。京都市の場合、結婚などで氏名が変わったときや市外へ転出したときは、届け出をしなくても登録が抹消されます。亡くなった方の印鑑証明書も発行されません。故人の実印を押しても、添える印鑑証明書がないため、誰の印鑑かを証明できません。生前に預かっていた実印でも、本人の意思を確かめずに押した書類は、あとで効力が争われるもとになります。相続に関わる書類は、すべて相続人自身の実印で進めてください。実印が要る場面は実印はいつ必要?車・住宅・相続など使う場面を整理にまとめています。
形見の印鑑の行き先は3つ
手続きが終わったあとの印鑑の行き先は、次の3つです。どれが正しいということはなく、印材の状態と、ご家族がどう残したいかで決まります。
残
そのまま残す
故人の名前が彫られたまま、桐箱に入れて手元に置きます。
- 向く人
- 故人の字が彫られた印面を残したい。ご家族の誰かが預かって、代々伝えたい
- すること
- 印影を紙に残す。印面を拭いて桐箱に入れる。年に1回ふたを開けて状態を見る
- 費用と期間
- どちらもかかりません。桐箱がなければ用意します
刻
改刻して使う
印面を削って平らにし、ご自身の名前を彫り直します。形見を、ふだん押す印鑑として持ち続ける方法です。
- 向く人
- 象牙や水牛など状態のよい印材を、しまい込まずにご自身の実印や銀行印として使いたい
- すること
- ひび・欠け・直径を確かめる。故人の印影を紙に残す。印章店に相談し、新しい印面を設計してもらう
- 費用と期間
- 彫刻代がかかります。状態の確認と設計の分、新しく作るより日数が要ります
納
供養して手放す
役目を終えた印鑑を、神社に納めて供養してもらいます。手元に置かないと決めたとき、捨てずに手放す方法です。
- 向く人
- 預かる人がいない。印材が傷んでいる。「ただ捨てる」のは避けたい
- すること
- 印影を紙に残す。印章祈願祭の当日に下鴨神社へ持参するか、全日本印章業協会の会員店に預ける
- 費用と期間
- 祈願祭は毎年9月の最終日曜日。費用や受付の期間は、協会か会員店で確かめる
まず残しておけば、あとから改刻にも供養にも切り替えられます。たとえば、ご家族の誰かが実印を作る節目まで待って改刻する。何年か手元に置いてから、印章祈願祭に納める。そうした順番でもかまわないので、いま無理に1つを選ぶ必要はありません。
残す|印影を紙に押し、印面を拭いて桐箱へ
そのまま残す場合は、印影を押して由来を書き添えた紙を、印鑑と一緒にしまっておきます。そうすれば、何十年たっても「誰の、どういう印鑑か」が分かります。
印影を、白い紙に押して残す
朱肉を薄く均一に付け、押印マットか雑誌を敷いて、まっすぐ押します。2〜3回押して、いちばんきれいな1枚を選びます。印材は、年月がたつうちにひびが入ったり縁が欠けたりすることがあります。紙に押しておけば、今の印影をそのまま残せます。改刻や供養を選んだあとも、この1枚が手元に残ります。
印面を拭いて、ケースごと桐箱に入れる
朱肉が残ったままだと、固まった油が印面を傷めます。柔らかい紙か布で軽く拭き取ってから、革のケースに入れ、桐箱に収めます。桐箱は湿気の変化をやわらげ、角や象牙の印材を乾燥から守ります。
由来を書いた紙を添える
「山本一郎の実印。昭和○年に京都で作ったもの。印材は象牙」のように、誰の印鑑で、いつ、どこで作ったかを、印影を押した紙に書き添えます。続柄より名前で書いておくほうが、代が替わっても誰のものか分かります。次の代に渡すとき、この1枚で印鑑の由来が伝わります。
しまう場所は、温度や湿度が変わりにくい、部屋の奥にあるたんすの引き出しが向いています。窓ぎわの棚、暖房の風が当たる場所、車の中は避けてください。角や象牙の印材は、急に乾くとひびが入ることがあります。素材ごとのしまい方は、子どもの印鑑を大人になるまで保管する方法で説明しているやり方がそのまま使えます。
改刻する|印材を自分の名前に彫り直す
改刻(かいこく)は、彫ってある印面を削り落として平らにし、そこに新しい名前を彫り直すことです。故人の印材をそのまま使い続けられるので、「形見をしまい込まずに、自分の実印として使いたい」という方に向いています。改刻が向くときと、新しく作るほうがよいときを分けて説明します。
- 本象牙は目が細かく丈夫で、削り直しても印面がきれいに整います。新しく作ると高価な印材なので、改刻を考える価値があります
- 黒水牛や白水牛も削り直せます。ただし角の印材は乾燥でひびが入っていることがあり、ひびが印面にかかると彫れません
- 直径は削っても変わりません。15〜18mmならご自身の実印に、12〜13.5mmなら銀行印に向いています
- 古い柘(つげ)などの木の印材は、乾燥で反りや割れが出やすく、削ると木目が欠けることがあります
- チタンなどの金属は削るのに専用の設備が要るため、受け付けていない店もあります。既製の三文判は、改刻するより新しく作るほうが安く済みます
- 改刻すると、故人の名前は元に戻せません。彫られた名前ごと形見にしたいなら、印鑑には手を付けず、ご自身の実印を同じ印材と書体で新しく作ります
改刻の流れと向く印材の一覧は、親から受け継いだ印鑑は使える?で詳しく説明しています。象牙の印鑑を相続するのに、手続きは要りません。環境省の案内によると、登録が要るのは牙の形をそのまま残した象牙(全形牙)です。印鑑を事業として繰り返し売り買いする場合は、個人でも事業者としての登録が必要です。手元で使い続けるのも、改刻して使うのも、ご家族に渡すのも問題ありません。象牙の扱いは象牙の印鑑とは?もご覧ください。
供養する|印章祈願祭に納める、または自分で処分する
預かる人がいない、印材が傷んでいる、けれど「ただ捨てる」のは避けたい。そういうときのために、役目を終えた印鑑を神社に納める行事があります。京都の下鴨神社で毎年行われている印章祈願祭です。
印章祈願祭(京都・下鴨神社)
- いつ
- 毎年9月の最終日曜日。10月1日の「印章の日」にちなんで行われます
- どこで
- 下鴨神社(京都市左京区)。本殿脇に印鑑と契約を守る神様をまつる印璽社、西参道に古い印章を納める印納社があります
- 何をするか
- 全国から集まった古い印章が本殿でご祈祷を受け、そのあと印納社の埋納式でお社に納められます
- 納め方
- 祈願祭の当日に下鴨神社へ持参するか、協会の会員マークがある印章店に持ち込みます
- いつから
- 昭和55年に京都府印章業協同組合が第1回を開き、平成24年からは全日本印章業協会の公益事業として続いています
当店は京都・伏見の印章店です。納め方が分からないときは、お問い合わせからご相談ください。遠方の方は、お近くの印章店で受け付けているかを尋ねてみてください。針供養や筆供養と同じように、印鑑の供養を受け付けている地域の神社もあります。
自分で処分するときの手順
- 01印影を紙に残す処分してしまうと二度と押せません。きれいに押した1枚を残します
- 02印面を削るか、傷を付けるやすりで印面を削るか、彫刻刀で文字に傷を付けて、押せない状態にします。誰かに拾われて使われるのを防ぎます
- 03白い紙に包んで手放す「長いあいだありがとう」と一言添えて包む方もいらっしゃいます。ごみの分別は、印材の種類に合わせて、お住まいの自治体の決まりに従ってください
3つのうちどれにするか、迷ったときの決め方
次の3つの問いに、上から順に答えてみてください。
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印材にひび、欠け、反りがありますか
ない残す・改刻する・供養する、どれにもできます。次の問いへある改刻は難しくなります。残すか、供養するかで考えます -
ご家族の中に、これから実印や銀行印を作る人がいますか
いるその人の節目に改刻する道があります。それまでは残しておきますいない残すか、供養するかで考えます -
預かって、状態を見てくれる人がいますか
いる印影と由来の紙を添えて、桐箱で残しますいない印影を残したうえで、印章祈願祭に納めます
形見とは別に、自分の実印を用意する
相続の手続きを始めてから、「自分の実印がない」と気づく方もいらっしゃいます。全国銀行協会の案内では、遺産分割協議書がある場合、預金の払い戻しに相続人全員の印鑑証明書が要ります。印鑑証明書は、実印を登録していないと取れません。実印をまだ持っていない方は、このタイミングで作って登録することになります。
形見の印鑑と同じ印材、同じ書体でご自身の実印を作るのも、受け継ぎ方のひとつです。たとえばお祖父様の実印が象牙の篆書体なら、ご自身も同じ組み合わせで作ります。印材を削らずに、素材と書体を受け継ぐ方法です。京都市の場合、印鑑登録ができるのは15歳以上で、1人につき1本です。同じ世帯の方が登録済みの印鑑は使えないので、ご家族がそれぞれ自分の1本を持つことになります。相続で急に必要になった方は、発送までの日数も含めて急ぎで用意する方法をご覧ください。
よくある質問
故人の銀行印は、相続の手続きで銀行に持って行く必要がありますか
全国銀行協会が示す必要書類は、遺産分割協議書、亡くなった方と相続人の戸籍謄本、相続人全員の印鑑証明書などです。故人の届出印は挙げられていません。ただし金融機関によっては、通帳やキャッシュカードと一緒に届出印を求められることもあります。手続きが終わるまでは、通帳と一緒にしまっておいてください。
故人と同じ姓の認印が出てきました。そのまま使ってもよいですか
姓だけの認印なら、同じ姓のご家族が宅配便の受け取りなど日常の場面で使えます。ただし、古い印材は縁が欠けていることがあるので、一度押して印影を確かめてください。銀行印や実印にするのは避けてください。故人や同じ姓のご家族と印影が重なり、誰の印鑑か区別できなくなります。
印章祈願祭に納めるのに、費用はかかりますか
全日本印章業協会の案内には、費用の記載がありません。納め方は、祈願祭の当日に下鴨神社へ持参するか、会員店に持ち込むかの2つです。費用や受付の時期は、協会か、持ち込む印章店に確かめてください。納め方が分からないときは、当店のお問い合わせからもご相談いただけます。
改刻を頼むとき、何を伝えればよいですか
印材の種類(分からなければ写真)、直径、ひびや欠けの有無、彫りたい名前と用途(実印か銀行印か)の4つです。故人の印影があれば、同じ系統の書体で設計することもできます。当店では状態を見てからお受けできるかをお答えしますので、まずは写真を添えてご相談ください。
まとめ|手続きが終わってから、印影を紙に押して行き先を決める
形見の印鑑の行き先は、次の順番で決めます。まず、相続の手続きが終わるまではケースに入れたまま保管し、書類にはご自身の実印を使います。手続きが終わったら、印影を白い紙に押し、誰の印鑑かと由来を書き添えます。次に、印材にひびや欠け、反りがないかを確かめます。最後に、これから実印や銀行印を作るご家族や、預かる人がいるかを考えて、残す・改刻する・供養するから選びます。
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実印の印材は実印の一覧でご覧いただけます。素材の選び方は実印の素材はどう選ぶ?をご覧ください。