CHAPTER 06 書体・文字・印影
新字体と旧字体の違い|印鑑はどちらの字で作る?
「沢」と「澤」、「斎」と「齋」はどちらが正しい字?新字体と旧字体は同じ字の2つの形で、1949年の当用漢字字体表で新字体が標準になりました。印鑑は、実印なら住民票の字で彫り、銀行印と認印はどちらの字でも作れます。字の形が変わった5つの型、篆書体で違いが出にくい理由、旧字体かどうかの見分け方も解説します。
公開日: 2026年10月6日 更新日: 2026年10月7日
「沢」と「澤」、「斎」と「齋」、「桜」と「櫻」。読みも意味も同じなのに、形の違う字が2つあります。ふだんは「沢」と書いているのに、住民票を取ったら「澤」だった。印鑑を注文しようとして、名前の欄にどちらを入れればよいか迷った。そんな方に向けた記事です。どちらが正しい字なのか、新しいほうは略した字なのか、印鑑はどちらで彫ればよいのか。この3つの疑問は、字が2つに分かれたいきさつを知ると、順に解けていきます。
新字体と旧字体は同じ字の2つの形で、どちらかが間違いというわけではありません。新字体は1949年の当用漢字字体表で標準になった形、旧字体はそれより前から使われてきた形です。印鑑は、実印なら住民票の字で彫ります。京都市では、2つの字の使い分けも認められています。ただ、市区町村によって扱いが違うことがあるため、住民票と同じ字で彫るのが確実です。銀行印と認印には字の決まりがなく、どちらでも作れます。会社の印鑑は登記した商号の字で彫ります。篆書体や印相体は古い字の形をもとにした書体なので、「沢」で注文しても「澤」に近い形に仕上がる字があります。
新字体と旧字体は、いつ、なぜ分かれたのか
デジタル大辞泉は新字体を、「古くから使われていた形を改めて、新たに用いられるようになった字体」と説明しています。具体的には、昭和24年(1949年)に告示された当用漢字字体表で定められた字を指します。この表は、それまで正字とされてきた形に代えて、略字や俗字、手書きで使われていた書き方を採り入れました。旧字体は、改められる前の「もとの字」です。分かれた経緯を、年表で追います。
-
1716年
康熙字典が完成し、旧字体の手本になる
中国・清の康熙帝の命令で編まれた字書です。デジタル大辞泉によると、47,000余りの漢字を部首と画数の順に並べています。その後の字書の手本となり、漢和辞典の字の並び順の基準にもなりました。「澤」「廣」「齋」のような旧字体はこの字典の形にもとづくため、康熙字典体とも呼ばれます。
-
1946年11月
当用漢字表で、日常で使う漢字の範囲が1,850字に決まる
国語審議会の答申にもとづいて、法令・公用文書・新聞・雑誌など、一般の社会で使う漢字の範囲を示した表です。日本大百科全書によると、1981年まで使われました。この表が決めたのは使う字の範囲で、字の形の標準は、その後の当用漢字字体表で示されます。
-
1949年
当用漢字字体表で、新字体が標準になる
昭和23年6月1日に国語審議会が答申し、翌年に告示されました。まえがきには、「異体の統合、略体の採用、点画の整理などをはかるとともに、筆写の習慣、学習の難易をも考慮した」とあります。印刷の字と手書きの字をできるだけ同じ形にすることも、方針として挙げられています。「澤」を「沢」に、「國」を「国」にした形は、ここで標準になりました。
-
1981年10月
常用漢字表が当用漢字表に代わる
当用漢字に95字を加えた1,945字の表で、字ごとに標準の形と音読み・訓読みが示されました。百科事典マイペディアによると、2010年11月の改定で196字が加わり、5字が外れて、今の2,136字になっています。
-
2010年11月
追加された字の一部に、康熙字典の形が残る
文化庁の案内によると、2010年に追加された「遡」「遜」は、点が2つのしんにゅうのまま採用されました。当用漢字表に入らなかった漢字は康熙字典の形で使われ続けてきたため、その形を引き継いだと説明されています。常用漢字表に入っていない字は、今も古い形のまま使うのが基本です。
旧字体は、1949年より前に正式とされていた形です。今も常用漢字表では、字の横の括弧の中に「いわゆる康熙字典体」として添えられています。新字体は、読み書きしやすくするために決められた今の標準の形です。どちらが正しいかではなく、場面によってどちらを使うかの話になります。
旧字体から新字体へ、字の形が変わった5つの型
当用漢字字体表のまえがきにある「異体の統合、略体の採用、点画の整理」を、名前によく出る字で見てみます。変わり方は、次の5つの型に分けられます。
澤→沢
「睪」が「尺」になった
画数の多い部品を、少ない画数の別の部品に替えた型です。「擇」が「択」に、「驛」が「駅」になったのも同じです。
名前の例:澤田、小澤、藤澤國→国
「或」が「玉」になった
囲いの中の部品を、線の少ない形に略した型です。「區」が「区」に、「圓」が「円」になったのも、この型にあたります。
名前の例:國分、國枝、國夫壽→寿
筆で書くときの略し方が標準になった
それまでは、印刷では旧字体、手書きでは略した形、という使い分けがありました。当用漢字字体表は、この手書きの形のほうを正式な字に採りました。「榮」が「栄」に、「學」が「学」になったのも同じ型です。
名前の例:壽一、壽美子、榮子德→徳
横の線が1本なくなった
部品はそのままで、点や線の数や向きを改めた型です。「德」は「心」の上の横線がなくなって「徳」になりました。「惠」は上の部分が簡単な形になって「恵」に、「眞」は上が「十」の形になって「真」になりました。違いがわずかなので、見落としやすい字です。
名前の例:德永、惠美、眞一辨・辯→弁
別の字だったものが同じ形になった
意味の違う複数の字を、1つの簡単な字にまとめた型です。まえがきの「異体の統合」にあたります。「豫」が「予」に、「餘」が「余」になったのも同じ考え方です。
名前にはあまり出ず、会社名や屋号の「辨」「豫」に残っていますどの型でも、読みと意味は変わっていません。「澤田」と「沢田」は同じ苗字で、戸籍にどちらの形で記録されているかだけが違います。
ふだんの文章は新字体なのに、名前に旧字体が残る理由
新聞や役所の文書はほとんど新字体なのに、名前には旧字体が多く残っています。場面ごとに、字の基準が違うためです。
法令・公用文書・新聞・放送常用漢字表は、法令、公用文書、新聞、雑誌、放送などで漢字を使うときの目安とされています
常用漢字表新字体出生届で付ける子の名戸籍法第50条は「常用平易な文字」と定めています。法務省の案内では、常用漢字表と人名用漢字表の漢字が使えます
戸籍法新字体と、人名用漢字表に入っている旧字体代々受け継ぐ氏第50条が定めているのは子の名なので、氏はこの決まりの対象ではありません
対象外戸籍に載ったときの字のまま戸籍と住民票の記録法務省民事局の資料は、康熙字典体や、漢和辞典で正字・俗字とされる字体も、記録に使う字体に含めています
法務省の定め旧字体も、そのまま使われます「年賀状は沢、住民票は澤」ということが起こるのは、この違いのためです。どちらも誤りではありません。印鑑の字を考えるときも、まず住民票にどちらの字で記録されているかを確かめるところから始めます。
印鑑は新字体と旧字体のどちらで作る?種類ごとの決め方
旧字体で彫る場合と新字体で彫る場合の扱いを、種類ごとに表にしました。字に決まりがあるのは、市区町村に登録する実印と、登記した商号を彫る会社の印鑑です。
実印|住民票が「澤」の方京都市では、住民票(住民基本台帳)に記録されている氏名の字を表していることが、登録の条件です
この字で彫ります登録できるかは市区町村しだいです。住民票と字の違う印影になります実印|住民票が「沢」の方京都市では新字体と旧字体の使い分けが認められていますが、市区町村によって扱いが違うことがあります
登録できるかは市区町村しだいです。当店ではおすすめしていませんこの字で彫ります銀行印届け出た印影そのものを照合します。全国銀行協会の案内に、字体の決まりは挙げられていません
決まりはありません決まりはありません認印回覧板や宅配便の受け取りに押します。だれの印鑑か分かれば問題ありません
実印と字をそろえたい方に向きます読みやすさを優先したい方に向きます会社の実印・角印法務局に届ける会社の実印は、登記した商号が基準です。角印も同じ字にそろえます
登記が「澤」なら、この字で彫ります登記が「沢」なら、この字で彫ります個人の印鑑のうち、字が決まっているのは実印だけです。銀行印と認印は、読みやすさや好みで選んでかまいません。3本セットで注文するときは、印鑑ごとに彫る字を入力できます。3本の役割の違いは実印とは?銀行印・認印との違いと登録までの流れに、会社で作る場合の決まりは会社実印とは?にまとめています。
篆書体では、新字体と旧字体の違いが出にくい
彫る字を決めたあとに、もう1つ知っておきたいことがあります。印影の見え方は書体で変わり、新字体と旧字体の違いがそのまま出るものと、出にくいものがあります。
- 違いの見え方
- 篆書体は漢字のもっとも古い書体で、新字体が作られるよりはるか前の形をもとにしています。「沢」で注文しても、印面では「澤」に近い形に彫り上がる字があります。どちらの字で注文しても、仕上がりの印象は大きく変わりません
- 向く印鑑
- 実印と銀行印に向きます。京都市では、新字体と旧字体の使い分けが認められています。こうした市区町村なら、住民票が「沢」の方の実印が「澤」に近い形になっても、登録で問題になりにくいでしょう
- 確かめ方
- 「印影のご確認」で届いたデザインを、住民票の字と見比べます。篆書体は線の形が今の字と違うので、細かな形よりも、字を組み立てている部品の数と並び方を確かめます
- 違いの見え方
- 今の字に近い線で彫るので、「澤」と「沢」の違いがそのまま印影に出ます。旧字体なら線が多く込み入った形に、新字体なら線が少なく読みやすい形になります
- 向く印鑑
- 認印と、字の形をはっきり見せたい銀行印に向きます。「澤」のような線の多い字は、10.5mmより12mmにすると線が詰まりにくくなります
- 確かめ方
- 印影が今の字に近い形なので、住民票と1画ずつ見比べて確かめられます
ほかの書体も含めた印影の違いは、印鑑の書体一覧で見比べられます。会社の印鑑に篆書体が多い理由と選び方は、会社印鑑の書体をご覧ください。
自分の名前の字が旧字体かどうかを見分ける方法
「自分の苗字は旧字体なのか、それとも昔からある別の形の字なのか」を確かめる方法は3つあります。
- 01常用漢字表で、括弧の中の字を見る文化庁の常用漢字表には、「沢(澤)」のように、字の横に古い形(康熙字典体)が括弧書きで添えられています。住民票の字がこの括弧の中の形なら、旧字体です。常用漢字表にある字なのに、そこにも見当たらない形なら、旧字体ではなく別の異体字です。
- 02法務省の戸籍統一文字情報で検索する読みや画数、部首から字を探せます。1つの字にどれだけの形があるかを一覧で見られるので、住民票の字がどの形かを突き合わせられます。6桁の番号を控えておけば、注文のときにどの形の字かを取り違えずに伝えられます。
- 03当店の「主な旧字体リスト」で記号を控える商品ページのお名前の欄の下から開けます。載っているのは、浅・栄・館・蔵・来・寿・瀬・高・富・徳・広・浜・辺・箕・実・吉・崎・斉・児・真・恵・薮・柳の23字です。それぞれの旧字体と異体字を、AからEの記号付きで並べています。入力できない字は、このリストで選んだ字と記号を備考欄に書いていただければ伝わります。
ご家族や知人に印鑑を贈るときに、相手の字を確かめる方法は印鑑のプレゼントで名前の漢字を間違えないにまとめています。
よくある質問
旧字体が「正しい字」で、新字体は略した字なのですか
どちらも正式な字です。旧字体は1949年より前に正字とされていた形で、新字体は当用漢字字体表で標準と定められた形です。新字体には略字や手書きの形を採り入れた字もありますが、国が告示で定めた標準の字で、くずした字や誤った字ではありません。
名刺や年賀状は、どちらの字にすべきですか
決まりはないので、使いたい字で構いません。ふだん「沢」で通している方は「沢」のまま、戸籍の字を大切にしたい方は「澤」に、という選び方があります。名刺の字がどちらでも、実印だけは住民票の字で作ります。
苗字は旧字体で、名は新字体です。1つの印鑑に混ざっても構いませんか
構いません。住民票に「澤田 太郎」と記録されていれば、そのとおりに彫ります。名には使える字の決まりがあり、氏にはないので、苗字だけが旧字体という方は珍しくありません。
姓名判断では、どちらの字の画数で見ますか
画数を旧字体で数える流派と、新字体で数える流派があります。鑑定でどちらの字を数えるかと、印鑑にどちらの字を彫るかは、別々に決められます。詳しくは姓名判断は旧字体と新字体のどちらで見る?にまとめています。
会社名に旧字体を使えますか
法務省の商号の案内には、漢字の字体を制限する決まりは挙げられていません。会社の実印には、登記した社名の字をそのまま彫ります。社名が「澤」なら「澤」、「沢」なら「沢」です。
子どもの名前に旧字体を使えますか
使える字と使えない字があります。法務省の案内では、子の名に使える漢字は常用漢字表と人名用漢字表の範囲です。人名用漢字表には、「櫻」「龍」「眞」「惠」のような旧字体の一部が含まれています。使いたい字が載っているかは、法務省の戸籍統一文字情報で「子の名に使える漢字」に絞って検索すると分かります。
まとめ|住民票の字を確かめてから、印鑑ごとに彫る字と書体を決める
新字体と旧字体で迷ったら、次の順に決めていきます。まず住民票を取り寄せ、名前がどちらの字で記録されているかを確かめます。会社の印鑑なら、登記事項証明書で商号の字を見ます。次に、その字が旧字体なのか別の異体字なのかを、常用漢字表の括弧や戸籍統一文字情報で調べます。そのうえで、実印は住民票と同じ字、銀行印と認印は好きな字、と印鑑ごとに彫る字を決めます。最後に書体を選び、「印影のご確認」で届いたデザインの字の形を確かめます。