CHAPTER 14 京印章・京都

京印章と他産地の印章の違い|甲州・東京と工程・素材・証明書で比較

京印章と、甲州手彫印章・東京手彫り印章の違いを比べます。京印章は京都府の「京もの指定工芸品」、甲州と東京は国の伝統的工芸品です。工程・素材・作風・証明書の違いも、公的な紹介をもとに整理しました。

公開日: 2026年10月10日

麻の帯で左右に分けた木のテーブル。左は藍の布に置いた胡桃の盆に、黒水牛と柘の印材、青磁の湯のみ、紅葉した楓の葉。右は灰色のフェルトに置いた白木の盆に、透明な水晶と柘の印材、ぶどうの房、灰色の川石
京印章と他産地の印章 京都・甲州・東京。同じ印章でも、土地ごとに育った作り方と作風があります

印鑑を調べていると、「京印章」「甲州手彫印章」「東京手彫り印章」のように、産地の名前が付いた印章を見かけます。どれも伝統の技で作る印章と聞いても、何がどう違うのかは分かりにくいものです。この記事では、3つの産地を、指定の仕組み、作り方の工程、素材、作風、品質の示し方の順に比べます。最後に、産地より先に確かめておきたいこともお伝えします。

先に結論

3つとも、職人が伝統の技法で作る印章で、名前は特許庁の地域団体商標に登録されています。大きな違いは、どこが指定した工芸品かです。京印章は京都府が指定する「京もの指定工芸品」で、甲州手彫印章と東京手彫り印章は国の伝統的工芸品です。特徴も産地ごとに違います。京印章は中国・漢の時代の印にならった重厚な字、甲州は水晶の手彫り印章です。東京は、すべての工程を1人の職人が手作業で行います。どの産地の印章も、実印や銀行印として同じように使えます。

印章の主な産地は3つ|京都・甲州・東京

この記事で比べるのは、国や都府県の指定と、特許庁の地域団体商標の両方を受けている京都・山梨・東京の3つです。それぞれの成り立ちを、先に見ておきましょう。

京印章京都府

京印章(きょういんしょう)は、京都の印章です。平安京で天皇や役所の印が作られ、江戸時代には印を彫る職人の「印判師」が生まれました。中国・漢の時代の印にならい、漢印篆(かんいんてん)という書体を主にした重厚な作風が特徴です。

甲州手彫印章山梨県

甲州手彫印章(こうしゅうてぼりいんしょう)は、山梨の印章です。御岳(みたけ)の山々で良質な水晶が見つかったことから始まりました。水晶の手彫り印章は、山梨県以外ではほとんど作られていません。

東京手彫り印章東京都・神奈川県

東京手彫り印章(とうきょうてぼりいんしょう)は、江戸時代に京都の印判師が江戸へ移ったことから始まりました。字の設計から荒彫り、仕上げまで、すべての工程を1人の職人が手作業で行います。

京都から江戸へ|産地どうしのつながり

3つの産地は、まったく別々に生まれたわけではありません。経済産業省によると、寛永元年(1624年)に京都の職人が江戸へ移り、将軍や幕府、大名の印を作るようになりました。これが、いまの東京手彫り印章の始まりです。

山梨では、御岳で良質な水晶が見つかったことが、印章づくりのきっかけでした。山梨県によると、1837年には、甲府に近い御岳に水晶の加工場ができました。水晶の印材に、木版印刷の板木(はんぎ)を彫る職人の技が加わり、彫刻の技術が発達しました。明治6年(1873年)の太政官布告で一般の人も実印を使えるようになると、印章の需要は急に増えました。

3つの産地に関わる主な出来事帯の長さは、それぞれの時代の長さに合わせています

  1. 1624年京都の職人が江戸へ移る
  2. 1837年甲府の近くの御岳に水晶の加工場ができる
  3. 1873年一般の人も実印を使えるようになる
  4. 2000年甲州手彫印章が国の伝統的工芸品になる
  5. 2025年東京手彫り印章が国の伝統的工芸品になる
京都の印章の歴史は、この帯よりずっと前の平安京にさかのぼります。山梨の市川三郷町では、いまも印章づくりとその関連の仕事が、町の基幹産業です。

指定の違い|国の伝統的工芸品と、京都府の京もの指定工芸品

「伝統的工芸品」は、伝統的工芸品産業の振興に関する法律にもとづいて、経済産業大臣が指定する工芸品です。日常生活で使われること、製造の主な部分が手工業的であることなど、5つの要件があります。2025年10月27日の時点で244品目が指定され、そのうち印章は甲州手彫印章と東京手彫り印章の2つです。

京都府には、国が指定した伝統的工芸品が17品目ありますが、京印章は入っていません。京印章が入っているのは、京都府知事が府を代表する工芸品として選ぶ「京もの指定工芸品」のほうです。京都市も、市が決めた74品目の伝統産業に京印章を数えています。国と府の指定の違いは、実用的な伝統工芸品をプレゼントにでも説明しています。

国の指定は、産地の組合が都道府県知事を通じて申し出て、審議を経て受けるものです。指定があるかどうかは、国が各産地の印章を比べて優劣を付けた結果ではありません。3つとも、それぞれの組合が地域団体商標に登録して、産地の名前を守っています。

工程の違い|流れは同じで、呼び名と数え方が違う

3つの産地は、工程の数え方や呼び名がそれぞれ違います。けれども並べてみると、字を設計し、印材に書き入れ、彫り、仕上げて確かめるという流れは3つとも同じです。表に出てくる「印稿(いんこう)」は、彫る字を紙に書いた下書きで、印影の設計図にあたります。

設計と準備字を書き入れる彫る仕上げと確認
京印章京都府印章業協同組合の6工程

印稿作成・印面修整書体と字を選んで設計図を練り、印面に朱を塗って平らに整えます

布字印稿をもとに、印面に墨で左右が逆の字を書きます

荒刻書いた字のとおりに、深さがそろうように彫ります

仕上げ・捺印筆の勢いを生かして刀を入れ、押して確かめます

甲州手彫印章山梨県が紹介する8工程

印面調整・印稿・字割印面を平らにし、字と書体を選んで、字の配置と割り振りを決めます

字入印稿を見ながら、印面に直接、左右が逆の字を書きます

荒彫・印面調整起底刀(きていとう)で彫り、印面に出た毛羽(けば)を取って平らに整えます

仕上げ・補刀判差刀(はんさしとう)で字を整え、押してみて足りないところを直します

東京手彫り印章東京都が紹介する技法

印稿画数などを考え、仕上がりの印影を思い描いて下書きします

字入れ印稿と左右が逆の字になるよう、小筆で印材に書き入れます

荒彫り篆刻台(てんこくだい)などに印材を挟んで固定し、印刀で彫ります

仕上げ字の太さや筆の入りと止めに気を配り、仕上刀で彫ります

工程の名前と区切り方は、それぞれの組合や自治体の紹介に従っています。4つの段階は、比べやすいように当サイトで分けたものです。

紹介のなかで強調している点は、産地ごとに違います。甲州は、彫ったあとにもう一度印面を整え、押してから直す「補刀」を工程に入れています。東京は、すべての工程を1人の職人が行うことが特徴です。京都府印章業協同組合が京印章の極意に挙げるのは、次の3つです。正しい字を選ぶ「字法」、字を釣り合いよく収める「章法」、刀で彫る「刀法」です。

素材の違い|柘・水牛・象牙・水晶

それぞれの自治体の紹介に挙げられている素材を並べると、次のようになります。柘(つげ)と水牛は、3つの産地すべてで使われてきました。

甲州の紹介にだけ出てくる素材が、水晶です。山梨県によると、県内で原石が採れたことから、水晶の細工がさかんになりました。なかでも水晶の手彫り印章は、ほかの地域ではほとんど作られていないといいます。京印章には、柘・水牛・象牙が使われてきました。素材ごとの特徴は、薩摩本柘の印鑑とは?や黒水牛の印鑑とは?で説明しています。

作風の違い|それぞれの紹介に出てくる言葉

作風は数字で比べられないので、それぞれの公的な紹介に出てくる言葉を並べます。

京印章漢印篆を主にした、重厚で雅味豊かな印章(京都府)。関東の印章とは作風が対照的(特許庁)
甲州手彫印章手作業を経た印影は、唯一無二の華やかな趣(山梨県)
東京手彫り印章文字の均整、線の力強さ、美しい印影(特許庁)。髪の毛1本分の精度の彫刻(東京都)

京印章の重厚さは、字の形にも表れます。漢印篆は、篆書体(てんしょたい)のなかでも、印の四角い枠に収まるよう形を整えた字です。線の太さがそろい、縦と横の線がまっすぐなので、どっしりと落ち着いた印影になります。

品質の示し方|京印章証明書と伝統証紙

産地の印章であることの示し方も、指定の仕組みによって違います。

京印章

京印章証明書

  • 発行は京都府印章業協同組合で、「この印章が京印章であることを証明する」と書かれています
  • 材質・サイズ・書体と、販売店名・制作士名が記入されます
  • 「京印章」が地域団体商標の登録商標であることも示されています

当店では通常の印鑑にお付けしています。本象牙の印鑑は、代わりに象牙認定書をお付けします

国の伝統的工芸品

伝統証紙

  • 産地の組合が検査して、伝統的な技術・技法・原材料で作られたと認めた品に貼れます
  • 証紙には、国の伝統的工芸品の「伝統マーク」がデザインされています
  • 経済産業省は、消費者に品質を証明するしるしと紹介しています

対象甲州手彫印章、東京手彫り印章など、経済産業大臣が指定した伝統的工芸品

京印章証明書。材質・サイズ・書体の欄と、販売店名・制作士名の欄があり、京都府印章業協同組合の名前が入っている
京印章証明書の見本です。印鑑ごとに、材質・サイズ・書体を記入してお届けします。

どの産地の印章でも、実印・銀行印として使えます

実印として登録できるかどうかは、お住まいの市区町村の決まりによります。産地や証明書の有無は関係ありません。京都市の場合、印影が8mm四方より大きく、25mm四方に収まることが条件の1つです。ゴム印のように押すたびに形が変わりやすいものや、同じ形で量産されている印鑑は登録できません。

そのうえで、産地より先に確かめておきたいのは、次の4つです。

産地より先に確かめたいこと

  • 字をだれが設計するか 職人がお名前に合わせて印面を設計すれば、同姓同名の方とも違う印影になります
  • 彫る前に印影を確かめられるか お名前に旧字や珍しい字があるときや、プレゼントにするときは、とくに大切です
  • 欠けたときに相談できるか 保証の年数と、修理や彫り直しの扱いを確かめておきます
  • 使う日に間に合うか 職人が作る印鑑は、注文から発送まで数日かかります

当店の京印章|京印章制作處 ダルマ屋印房

当店は、京都・伏見で大正15年に創業した印章店で、京印章の販売を認められた「京印章制作處」です。職人の池上翠雲は「京印章制作士」の認定を受けています。当店では、印面の設計と仕上げ、検品を池上が行い、荒彫りには彫刻機を使います。この点で、上で紹介した伝統的な工程とは異なります。

ご希望の方には、彫る前の印影をメールでお送りします。通常はご注文から3〜7営業日で発送し、送料は無料、5年間の保証が付きます。京印章の歴史と特徴は、京印章とは?で詳しく紹介しています。

よくある質問

京印章は、国の伝統的工芸品ですか

いいえ。京印章は、京都府知事が指定する「京もの指定工芸品」です。国の伝統的工芸品に指定されている印章は、2025年10月27日の時点で、甲州手彫印章と東京手彫り印章の2つです。

京印章と甲州や東京の印章では、どれを選べばよいですか

実印や銀行印としての使い方は、どれも同じです。字の作風や素材の好み、注文のしやすさで選んでください。漢印篆の重厚な字が好みなら京印章、水晶の印鑑を作りたいなら甲州の印章が候補になります。

京印章証明書があると、実印の登録で有利になりますか

いいえ。実印として登録できるかどうかは、印影の大きさや形などの条件で決まり、証明書の有無は関係ありません。京印章証明書は、京印章であることを示すためのものです。

産地によって、印鑑の丈夫さは変わりますか

丈夫さを左右するのは、主に印材と、彫り方や仕上げです。産地の名前だけでは決まりません。長く使いたい実印には、粘りがあって欠けにくい水牛や、木目が細かく硬い薩摩本柘が向いています。

京都以外に住んでいても、京印章を注文できますか

はい。当店では全国からご注文を承っています。京都で制作し、北海道・沖縄・離島を含めて送料無料でお届けします。

まとめ|産地の印章を選ぶときに決める順番

まず、実印・銀行印・認印のどれを何本作るかを決めます。次に印材を選びます。柘と水牛はどの産地でも使われてきました。水晶で作りたいなら、甲州の印章から探します。そのうえで、字の作風を考えます。どっしりと落ち着いた印影が好みなら、京印章の篆書体が合います。最後に、作り手の認定や証明書、彫る前に印影を確かめられるかを見て、注文する店を決めてください。

柘・水牛・象牙。京印章で使われてきた素材で

京印章制作士が作る、実印・銀行印・認印の3本セット

京都・伏見の職人が、お名前に合わせて印面を設計し、1本ずつ制作します。通常の印鑑には京印章証明書が付きます。印鑑ケース、朱肉、押印マット付きで、桐箱か化粧箱に収めてお届けします。送料無料、5年保証です。

すべての印材の3本セットを見る彩樺、白水牛、チタンなどもお選びいただけます

SOURCES

出典

京印章の歴史・素材・作風と技能士の数は京都府、京印章の定義と6つの制作工程は京都府印章業協同組合、京もの指定工芸品は京都府の案内によります。甲州手彫印章の指定年・原料・8つの工程・水晶の印章は山梨県、東京手彫り印章の指定日・原材料・技法は東京都と経済産業省の案内によります。国の伝統的工芸品の要件は伝統的工芸品産業の振興に関する法律第2条、伝統証紙は経済産業省の広報誌、地域団体商標は特許庁の登録案件の紹介を参照しました。実印として登録できる印鑑の条件は京都市の案内によるもので、市区町村によって決まりが異なります。京印章証明書の発行元は証明書の記載、当店の作り方と認定は当店の情報です。

  1. 京都府. 京印章[京都府の伝統的工芸品等]. 京都府ホームページ. https://www.pref.kyoto.jp/senshoku/1272266181763.html,(参照 2026-10-10).
  2. 京都府. 京都府の伝統的工芸品等. 京都府ホームページ. https://www.pref.kyoto.jp/senshoku/dento.html,(参照 2026-10-10).
  3. 京都府印章業協同組合. 京印章とは. https://www.kyoinsho.com/about.html,(参照 2026-10-10).
  4. 山梨県. 手彫印章・手彫水晶印(甲州手彫印章). やまなしの美技. https://www.pref.yamanashi.jp/shouko/kogyo/densan/insyo_01.html,(参照 2026-10-10).
  5. 東京都産業労働局. 東京手彫り印章. 東京の伝統工芸品. https://www.dento-tokyo.metro.tokyo.lg.jp/items/42.html,(参照 2026-10-10).
  6. 経済産業省. 「東京手彫り印章」を伝統的工芸品として指定しました(2025年10月27日). https://www.meti.go.jp/press/2025/10/20251027001/20251027001.html,(参照 2026-10-10).
  7. 一般財団法人 伝統的工芸品産業振興協会. 伝統的工芸品指定品目一覧・都道府県別(2025年10月27日現在). https://kyokai.kougeihin.jp/wp/wp-content/uploads/2025/10/shitei-area_20251027.pdf,(参照 2026-10-10).
  8. 伝統的工芸品産業の振興に関する法律(昭和49年法律第57号)第2条. e-Gov法令検索. https://laws.e-gov.go.jp/law/349AC1000000057,(参照 2026-10-10).
  9. 経済産業省. 伝統産業――品質保証、海外進出、人材育成…「本物」を守る闘いは続く. METI Journal ONLINE. https://journal.meti.go.jp/policy/202605/46150/,(参照 2026-10-10).
  10. 経済産業省 特許庁. 商標登録第5015715号 京印章(きょういんしょう). 地域団体商標登録案件一覧. https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/chidan/shoukai/ichiran/5015715.html,(参照 2026-10-10).
  11. 経済産業省 特許庁. 商標登録第5018653号 甲州手彫印章(こうしゅうてぼりいんしょう). 地域団体商標登録案件一覧. https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/chidan/shoukai/ichiran/5018653.html,(参照 2026-10-10).
  12. 経済産業省 特許庁. 商標登録第7029096号 東京手彫り印章(とうきょうてぼりいんしょう). 地域団体商標登録案件一覧. https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/chidan/shoukai/ichiran/7029096.html,(参照 2026-10-10).
  13. 京都市. 印鑑登録. 京都市情報館. https://www.city.kyoto.lg.jp/bunshi/page/0000147302.html,(参照 2026-10-10).