CHAPTER 06 書体・文字・印影
読みやすい印影と複雑な印影の違い|可読性・デザイン性・防犯性
読みやすい印影と複雑な印影は、その印影をだれが見るかで使い分けます。実印と銀行印は、届け出た印影と見比べてもらう印鑑なので、篆書体や吉相体が向きます。認印は、だれが押したかを読んでもらう印鑑なので、古印体や隷書体が向きます。可読性・デザイン性・防犯性の3つの軸で2つの印影を比べ、書体だけに頼らない防犯の工夫も紹介します。
公開日: 2026年10月6日 更新日: 2026年10月7日
印鑑の見本を並べると、印影は2つに分かれます。古印体や楷書体のように名前がそのまま読める印影と、篆書体や印相体のように字が読み取りにくい印影です。読める印影は親しみやすく、読めない印影は格式があって、まねされにくそうに見えます。では実印は、銀行印は、認印は、どちらにすればよいのでしょうか。この記事では、2つの印影を可読性(読みやすさ)、デザイン性、防犯性(まねされにくさ)の3つの軸で比べます。続けて、場面ごとにどちらが向くか、読みにくさだけに頼らない防犯の工夫、注文で決めることをご案内します。
どちらがよいかは、その印影をだれが見るかで決まります。実印と銀行印の印影を見るのは、市区町村や銀行の窓口で、届け出た印影と見比べる人です。名前が読める必要はないので、まねされにくい複雑な印影が向きます。認印の印影を見るのは、回覧板や宅配の伝票で、だれが押したかを読む人です。こちらは、読みやすい印影が役に立ちます。当店の注文画面でも、実印と銀行印は篆書体(太)と吉相体、認印は古印体と隷書体が星5つです。防犯は書体の読みにくさだけに頼らず、印鑑を通帳や登録証と別の場所にしまって補います。
「読みやすい印影」と「複雑な印影」とは
デジタル大辞泉によると、可読性は「文字や文章が読みやすいこと」です。「読みやすい印影」は、押した跡を見ただけで、印鑑に詳しくない人にも名前が読める印影です。学校で習う字に近い楷書体、丸みと墨だまりのある古印体、横に広い隷書体、筆の流れが残る行書体がこちらです。
「複雑な印影」は、字の形が今の漢字と違うので、ひと目では名前を読み取れません。漢字の古い形をもとにした篆書体と、その線を枠まで伸ばした印相体(吉相体)がこちらです。ただ、まったく読めないわけではなく、印鑑を見慣れた人なら判読できます。判読とは、大辞泉によると「わかりにくい文字や文章を判断・推察しながら読むこと」です。
吉相体
篆書体
古印体
隷書体
行書体
楷書体
3つの軸で比べる|可読性・デザイン性・防犯性
点数は5段階で、当店で印鑑をお作りしてきた経験にもとづく目安です。見本は、同じ「山本正夫」を古印体と篆書体で彫った印影です。
読みやすい印影
古印体・隷書体・楷書体・行書体- 可読性印鑑を知らない人にも、名前が読めます
- デザイン性親しみやすく、やわらかい印象です。重厚さは出にくくなります
- 防犯性字が読めるので、同じ書体でまねされやすくなります
役目は、だれが押したかを伝えることです。回覧板や宅配の伝票、職場の書類のように、押したあとで人が名前を読む場面に向きます。楷書体は1画ずつ離して書く字なので、線を続けて書く行書体より字の形を読み取りやすくなります。
複雑な印影
篆書体・印相体(吉相体)- 可読性見慣れた人が、推察しながら読む字です
- デザイン性格式があります。篆書体は端正で、吉相体は重厚です
- 防犯性字の形を知らないと、まねして作るのは難しくなります
役目は、届け出た印影と見比べてもらうことです。市区町村に登録する実印、銀行の届出印、法務局に提出する会社の印鑑に向きます。吉相体は線が枠につながるので、枠が欠けにくくなります。
防犯性の差は、字が読めるかどうかで生まれます。読みやすい印影は、名前さえ分かれば、同じ書体で似たものを作れます。複雑な印影は、字の形を知らないと、見本なしでは作れません。ただし、押した跡が相手の手元にあれば、どちらも写し取れます。この点はあとでお話しします。
だれが見るのか|場面ごとに向く印影
3つの軸のうち、どれを優先するかは場面で決まります。見るのが「見比べる人」なら複雑なほうを、「読む人」なら読みやすいほうを選びます。
市区町村の印鑑登録登録した印影と、書類に押した跡を見比べます
登録はできます向きます銀行の届出印払い戻しのとき、届け出た印影と見比べます
届け出はできます向きます法務局に提出する会社の実印登記の申請書に押した跡と見比べます
届け出はできます向きます職場の回覧板・社内の書類だれが確認したかを読みます
向きますだれの印か読めません宅配や書留の受け取り受け取った人の名前を読みます
向きますだれの印か読めません会社の角印請求書や見積書に社名を示します
読める書体を選ぶ会社もあります篆書体と吉相体が星5つです京都市の案内では、実印として登録できる印鑑の要件に「印影が鮮明で文字の判読が容易であること」があります。これは、押した跡がかすれず、字が氏名を表していると確かめられることを求めたものです。書体を限る決まりではなく、篆書体や吉相体の実印も登録に使われています。同じ案内には、「外わくがあり、かつ、その輪かくの模様が照合しやすいもの」という要件もあります。「同一形態の印鑑が量産されているものでないこと」も並んでいます。どちらも、見比べやすくするための条件です。
会社の実印は、商業登記規則第9条で「照合に適するものでなければならない」と定められています。こちらも、見比べることを前提にした決まりです。全国銀行協会の案内では、届出印に使えない例として、キャラクターものの印鑑が挙がっています。多数の人が同じ印鑑を持っていると、印鑑照合の意味がなくなるからです。
防犯性は、読みにくさだけでは決まりません
複雑な印影はまねされにくいものの、押した跡が相手の手元にあれば、字の形は分かってしまいます。内閣府・法務省・経済産業省は、押印についてのQ&Aをまとめています。そこでも、3Dプリンターなどの技術が進み、印章をまねしやすくなったという指摘に触れています。書体の読みにくさは、防犯の手立ての1つにすぎません。
書体のほかにできる3つの工夫
- 1印鑑と、通帳や印鑑登録証を別の場所にしまう
全国銀行協会は、通帳が盗まれたときに備えて、届出印を通帳や印影の分かる書類とは別に保管するよう勧めています。実印も同じで、印鑑登録証(カード)とは別の場所に置きます。実印を押す手続きでは、印鑑証明書も一緒に求められます。証明書は登録証で取るので、別々にしまっておけば、片方だけ持ち出されても手続きは進みません。
- 2自分の印影を1枚、控えとして残す
白い紙に押して、どれが実印でどれが銀行印かを書き添え、印鑑とは別の場所に保管します。なくしたときや、ご家族が手続きをするときに、どの印鑑を届け出ていたかが分かります。控えの紙も印影が分かる書類なので、人目に触れない場所にしまいます。
- 3既製品ではなく、自分の名前で彫った印鑑を使う
既製品は同じ形で量産されることが多いので、同じ印影を持つ人がほかにもいます。京都市の要件でも、同じ形で量産された印鑑は登録できません。名前の字に合わせて1本ずつ彫った印鑑なら、読みやすい書体でも、同じ印影を持つ人はまずいません。
なくしたときの手順は、実印をなくしたら最初にすることにまとめています。
デザイン性は、複雑なほど重厚とは限りません
「複雑なら重厚、読みやすければ軽い」と思われがちですが、複雑な印影でも、篆書体と吉相体では印象が違います。篆書体は線の太さがそろい、字が枠の内側に収まるので、重さより端正さが目立ちます。吉相体は線を枠まで伸ばして印面を埋めるので、朱の面積が広く、重厚に見えます。読みやすい印影では、隷書体は横に広い形で落ち着いて見え、古印体は墨だまりで温かみが出ます。
なお、印面に彫るのは名前を表す字と枠だけです。イラストや記号を入れると印鑑登録の条件に合わなくなるため、模様を足して個性を出すことはできません。印影のほかで個性を出すなら、印材の色とケースの色で選びます。詳しくはデザイン性を重視した印鑑の選び方で説明しています。
3本セットなら、両方の印影を持てます
実印と銀行印は複雑な印影に、認印は読みやすい印影にする組み合わせをおすすめしています。見比べてもらう2本はまねされにくく、読んでもらう1本はだれの印か分かります。印影がはっきり違うので、3本を取り違えて押すことも減ります。当店の3本セットは、書体を1本ずつ選べます。実印は吉相体、銀行印は篆書体、認印は古印体のように、3本とも違う書体にすることもできます。
- 01見比べてもらう印鑑を決める実印と銀行印です。書体は篆書体(太・細)か吉相体から選びます。2本を同じ書体にするなら、太さを変えるか、銀行印の向きを「ヨコ」にすると見分けやすくなります。
- 02読んでもらう印鑑を決める認印です。注文画面では古印体と隷書体が星5つ、楷書体と行書体が星4つです。どれも印鑑に詳しくない人が読める書体なので、見た目の好みで選べます。
- 03直径を1段ずつ変える実印15mm・銀行印13.5mm・認印12mmのように段差をつけると、押す前にも見分けられます。印影の違いと合わせて、二重の目印になります。
- 04「印影のご確認」で、読みにくさの度合いを見る「確認する」を選ぶと、ご注文の2〜3日後に、選んだ書体で名前を組んだデザインがメールで届きます。自分の名前でどう見えるかを確かめてから、彫刻に進めます。
よくある質問
複雑な印影の実印は、窓口で「読めない」と言われませんか
篆書体や吉相体でも、実印として登録できます。当店でいちばん多くお作りしている実印も、この2つの書体です。京都市の要件にある「文字の判読が容易」は、印影がかすれず、字が氏名を表していると確かめられることを指します。書体を限る決まりではありません。
読みやすい古印体で実印を作ってはいけませんか
作れますし、登録もできます。ただ、実印の印影を見るのは見比べる人なので、名前が読める必要はありません。読める書体は、名前が分かれば似た印影を作られやすい面があります。当店の注文画面では、実印の古印体は星2つです。
認印を篆書体にしたら、職場で困りますか
回覧板や社内の書類では、だれが押したかを読んでもらう場面が多いので、篆書体だと読めずに聞かれることがあります。職場で使う認印は、古印体か隷書体をおすすめしています。宅配の受け取りなど自宅でしか使わないなら、篆書体でも困る場面はあまりありません。
複雑な印影なら、偽造の心配はしなくてよいですか
心配は減りますが、なくなりはしません。押した跡を持っている人なら、字の形は分かります。政府の押印についてのQ&Aにも、3Dプリンターなどの技術の進歩で、印章をまねしやすくなったという指摘が載っています。書体を選ぶのと合わせて、印鑑は通帳や登録証と別の場所にしまっておいてください。
篆書体と吉相体では、どちらが読みにくいですか
吉相体のほうが読みにくい書体です。篆書体の線を枠まで伸ばし、字と枠をつなげているためです。篆書体は字が枠の内側に収まるので、見慣れた人なら比較的読み取れます。読みにくさを最優先するなら吉相体、端正さも欲しいなら篆書体です。
会社の角印は、読みやすい書体と複雑な書体のどちらにすべきですか
会社の考え方で分かれます。角印は請求書や見積書に押して社名を示す印鑑なので、取引先が読める書体を選ぶ会社もあります。当店の注文画面では、角印は篆書体(太・細)と吉相体が星5つ、古印体と隷書体が星3つです。会社の実印と銀行印は篆書体にして、角印だけ読みやすい書体にする分け方もあります。
まとめ|印影を見る人から逆算して決める
はじめに、作る印鑑それぞれについて、印影をだれが見るかを考えます。実印と銀行印は窓口で見比べてもらうので、篆書体か吉相体にします。認印は押したあとで名前を読んでもらうので、古印体か隷書体にします。次に、複雑な印影のなかから、端正さを取るなら篆書体、重厚さを取るなら吉相体と、好みで1つに絞ります。最後に、書体だけに頼らず、印鑑を通帳や登録証と別の場所にしまい、印影の控えを残します。3本セットで書体を分ければ、見比べてもらう2本と読んでもらう1本を、1度の注文でそろえられます。
3本をまとめてそろえるなら、書体を1本ずつ選べる実印・銀行印・認印の3本セット(薩摩本柘 21,700円〜、黒水牛 24,300円〜)が、同じ3本を1本ずつ注文するより安くなります。