CHAPTER 01 印鑑の基礎知識
捺印と押印の違い|意味は同じ?署名捺印・記名押印の使い分け
捺印(なついん)と押印(おういん)は、どちらも印鑑を押すことで、意味は同じです。役所の書類が「押印」なのは、「捺」が常用漢字にないためです。署名捺印・記名押印の使い分け、指印や花押の扱い、欄に押す印鑑の決め方も説明します。
公開日: 2026年10月10日
契約書には「署名捺印」、役所の書類には「押印」と書かれていることがあります。同じように印鑑を押す欄なのに言葉が違うと、別の印鑑が要るのかと迷います。取引先から「ご捺印をお願いします」と言われて、実印のことかと身構えた方もいるでしょう。この記事では、2つの言葉の違いと、欄に押す印鑑の決め方をお話しします。
捺印と押印は、どちらも「印鑑を押すこと」です。意味に違いはありません。法令や役所の書類では「押印」を使い、契約書や会社どうしのやり取りでは「捺印」もよく使います。どちらの言葉で書かれていても、押す印鑑は変わりません。実印か認印かは、言葉ではなく書類の種類で決まります。
捺印と押印の読み方と意味|どちらも印鑑を押すこと
捺印は「なついん」、押印は「おういん」と読みます。デジタル大辞泉は、捺印を「印判をおすこと」と説明し、同じ意味の言葉として押印を挙げています。押印の項にも「印を押すこと。捺印」とあり、2つは互いに言い換えられる言葉です。
「捺」は、手で押しつけるという意味の字です。捺印は、1,200年以上前の文書にも出てくる古くからの言葉です
よく見る場所:契約書、取引先からの依頼のメールや手紙戦後、捺印に代わって法令で使われるようになった言葉です。「押」は常用漢字なので、役所の文書でもそのまま使えます
よく見る場所:法令、役所の届出書、公的な案内同じ意味の言葉には、ほかに「押捺(おうなつ)」もあります。ふだんの書類で目にすることは、あまりありません。
辞書には、もう1つの意味も載っています。捺印は、押したあとに残る印影そのものを指すこともあります。とはいえ、書類の案内で見かける捺印や押印は、たいてい「ここに印鑑を押してください」という意味です。
役所の書類が「押印」なのは、「捺」が常用漢字にないから
古くから使われてきたのは、捺印のほうです。精選版 日本国語大辞典は、捺印の古い用例として延暦13年(794)の文書を挙げています。明治23年(1890)の民事訴訟法にも「署名及ひ捺印」という言い方が出てきます。
押印が広く使われるようになったのは、戦後のことです。昭和21年(1946)に、日常で使う漢字の範囲を示す当用漢字表が告示されました。「捺」の字は、その中に入りませんでした。精選版 日本国語大辞典は、捺印に代わって押印が広まった理由を2つ挙げています。当用漢字の制定と、「法令用語改正要領」の施行です。今の常用漢字表(2010年)にも「捺」はなく、法令や役所の文書では押印を使います。
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794年
捺印の古い用例
平安時代にまとめられた『類聚符宣抄』に、この年の文書として「後日捺印」という一節が残っています。
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1890年
民事訴訟法に「署名及ひ捺印」
明治の法律では、印を押すことを捺印と書いていました。
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1932年
手形法に「記名捺印」
手形法第82条は「本法ニ於テ署名トアルハ記名捺印ヲ含ム」と定めています。この条文は今もそのまま使われています。
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1946年
当用漢字表に「捺」が入らない
法令や役所の文書、新聞で使う漢字の範囲が、1,850字に定められました。
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1948年
刑事訴訟規則に「押印」
精選版 日本国語大辞典が、押印の用例として挙げている規則です。
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2010年
今の常用漢字表にも「捺」はない
2,136字に増えたあとも「捺」は入らず、役所の文書では押印を使い続けています。
古い法律には、手形法のように捺印のまま残っているものもあります。会社どうしの契約書や依頼のメール・手紙でも、捺印はよく使われます。使われ始めた時期は違っても、どちらかが間違いということはありません。
署名捺印・記名押印など4つの呼び方と使い分け
捺印と押印は、名前の書き方を表す「署名」「記名」と組み合わせて使われます。署名は、本人が自分の手で名前を書くことです。記名は、パソコンの印字やゴム印も含めて、名前を記すこと全般を指します。呼び方は、次の4つになります。
4つの呼び方の早見表違いは前半の「署名」か「記名」かだけです
本人の手書き
署名捺印契約書でよく見る言い方です
署名押印刑事訴訟法など、法令でも使われます
印字やゴム印でもよい
記名捺印手形法や小切手法の条文にある言い方です
記名押印会社法など、今の法令でよく使われます
「署名捺印」と「記名押印」をよく見かけますが、署名には捺印、記名には押印という決まりはありません。
書類を書くときに気にするのは、後半の捺印・押印ではなく、前半の言葉です。「署名」なら本人が手で名前を書き、「記名」なら印字やゴム印でもかまいません。法令でも、この2つは書き分けられています。会社法第26条は、会社を作る人(発起人)が、定款という書類に「署名し、又は記名押印」するよう定めています。
外国籍の方については、明治32年(1899)の古い法律が今も残っています。法令が署名と捺印の両方を求めている場面でも、外国人は署名だけで足りると定めた法律です。日本で暮らす外国籍の方が実印を作る場合の決まりは、外国人でも実印は作れる?でご案内しています。
指印(拇印)や花押は押印になる?|自筆の遺言の判例から
押印は印鑑を押すことですが、その代わりに使われてきたものもあります。親指などに朱肉を付けて押す指印と、名前を図案化して筆で書く花押(かおう)です。指印は、拇印(ぼいん)とも呼ばれます。民法第968条は、自筆の遺言について、全文・日付・氏名を本人が書き、「印を押さなければならない」と定めています。この「印」にどこまでが含まれるかを、最高裁判所が判決で示しました。
印鑑を押した実印でなくてもかまいません
認められる指に朱肉を付けて指印を押した最高裁 平成元年6月20日判決
認められる筆で花押を書いた最高裁 平成28年6月3日判決
認められない名前を書いただけ印を押していない
押印にならない花押は、戦国武将の書状にも見られるしるしで、印鑑と同じように本人を示すために使われてきました。それでも最高裁は、花押を書いても押印にはならないと判断しました。役目は似ていても、筆で書くことと印を押すことは別に扱われます。
指印が認められたのは遺言の場合で、どの書類でも通るわけではありません。ブリタニカ国際大百科事典によると、手形の「記名捺印」に拇印は含まれないとするのが判例・通説です。実印を求める書類は、印影を印鑑証明書と照らし合わせるので、指印では受け付けてもらえません。
なお、2026年6月に公布された改正民法で、自筆の遺言の押印は任意になります。公布から1年以内に施行される予定です。施行後は、全文・日付・氏名を自分で書けば、印を押さなくても遺言の形式が整います。これから書く方は、書く時点の決まりを法務省の案内で確かめてください。
「捺印」「押印」と書かれた欄には、どの印鑑を押す?
欄の言葉が捺印でも押印でも、押す印鑑はその書類の種類で決まります。目安は次の3つです。
印鑑証明書を一緒に出す書類
- 不動産の登記や、住宅ローンの契約市区町村に登録した印鑑を押します。受け取った側が、印鑑証明書と見比べて確かめます
- 普通自動車の登録、遺産分割協議書「実印で」と書かれていなくても、印鑑証明書を求められたら実印を押します
銀行や信用金庫に出す書類
- 口座の開設、住所や名前の変更口座を作るときに届け出て、その後の手続きにも同じ印鑑を使います
- 口座振替の依頼書公共料金やクレジットカードの引き落としを申し込む書類です
印影を照らし合わせない書類
- 申込書、社内や学校に出す書類役所にも銀行にも届けていない、ふだん使いの印鑑で足ります
- 宅配便や書留の受け取り受け取ったしるしとして押します
「ご捺印のうえご返送ください」とだけあり、どの印鑑か書かれていないこともあります。印鑑証明書も一緒に求められていれば、実印を押します。求められていなければ、たいていは認印で足ります。迷ったら、送り主に尋ねてください。認印で足りる書類でも、インクを内蔵したスタンプ式の印鑑は断られることがあります。理由は認印にシャチハタは使える?で説明しています。3つの印鑑の役割は、実印とは?銀行印・認印との違いにまとめました。
よくある質問
「ご捺印」と「ご押印」は、どちらが丁寧ですか
丁寧さは変わりません。「ご捺印のほどお願いいたします」「ご押印をお願いいたします」のように、どちらも相手にお願いするときに使えます。社内の書式で言葉をそろえるなら、法令と同じ「押印」に合わせる方法があります。
捺印欄と押印欄で、別の印鑑を用意する必要はありますか
ありません。どちらの欄にも同じ印鑑を押せます。印鑑は、欄の言葉ではなく書類の種類で使い分けます。印鑑証明書を付けるなら実印、銀行に出すなら銀行印を押します。
印鑑を持っていないとき、指印で済ませてもいいですか
書類によります。世界大百科事典によると、指印は印鑑がないときに臨時で使うもので、契約書のような重要な書類には使われません。受け取りの確認などでは、相手が認めることもあります。押す前に、指印でよいかを尋ねてください。
「押印省略」と書かれていたら、押さないほうがいいですか
押さなくても受け付けてもらえるという意味なので、押す必要はありません。税務署に出す書類の多くは、2021年4月から押印が要らなくなりました。押印の欄が残る古い様式を使うときは、提出先の案内に従ってください。
まとめ|捺印・押印の欄を見たときに確かめる順番
まず、捺印か押印かという言葉の違いは気にしなくてかまいません。次に、言葉の前半が「署名」か「記名」かを見ます。「署名」とあれば自分の手で名前を書き、「記名」とあれば印字やゴム印でも足ります。
最後に、押す印鑑を書類の種類で選びます。印鑑証明書を一緒に出すなら実印、銀行や信用金庫に出すなら銀行印、それ以外は認印です。どれか分からないときは、押す前に送り主に確かめてください。
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