CHAPTER 01 印鑑の基礎知識

電子化しても印鑑が使われる5つの理由|実印と電子署名の違い

電子化が進んでも印鑑が使われる5つの理由を、登記の決まり、印鑑証明書の仕組み、電子証明書の有効期間から説明します。実印とマイナンバーカードの電子署名の違いや、今も実印・銀行印が要る手続きの見分け方も分かります。

公開日: 2026年10月10日

夜の濃い灰色の机を真鍮のデスクランプが照らし、伏せたスマートフォンと、金色の接点が付いた白いカードを差し込んだ黒いカードリーダーが並ぶ。隣の黒い捺印マットには黒水牛の印材が立ち、朱色の丸い朱肉入れ、白紙を挟んだ透明なファイル、生成りの封筒が置かれている
電子化後も印鑑が使われる理由 電子署名が広がっても、実印の出番は残っています

会社の契約はオンラインで結ぶようになり、役所の手続きもスマートフォンで済むものが増えました。それなのに、家の売買や相続の手続きでは、実印と印鑑証明書を求められます。「電子化したのに、なぜ印鑑なのか」と不思議に思われた方もいらっしゃるでしょう。この記事では、電子化が進んだ今も印鑑が使われる理由を、国の資料と法律をもとに説明します。

先に結論

電子化で減ったのは、認印のように、登録した印影と照らし合わせない押印です。家や土地の登記、車の名義変更のように、印鑑証明書で本人を確かめる手続きは残りました。実印と電子署名は、役目がよく似ています。どちらが付いた文書も、法律では「本人が作ったもの」と推定されます。ただ電子署名は、相手や窓口が対応していないと使えません。そのため紙の手続きでは、今も実印が使われています。

電子化はどこまで進んだ?|電子契約を使う会社は3社に2社

2020年にテレワークが広がると、押印のためだけに出社することが問題になりました。総務省の令和3年版情報通信白書も、このことを取り上げています。その後、電子契約を使い始める会社が一気に増えました。

67.2%電子契約を利用している企業
2021年1月の調査
  • 2020年
    7月
    41.5%
  • 利用予定を
    含めると
    8割強

出典:総務省「令和3年版 情報通信白書」。JIPDEC(日本情報経済社会推進協会)とITRの「企業IT利活用動向調査2021」の結果です。

「脱ハンコ」と呼ばれた見直しで、国の手続きも大きく変わりました。内閣府の集計では、押印を求めていた15,611種類のうち、15,493種類で押印をなくすことになりました。残った118種類は、どれも印鑑証明書を付けるか、登録や届け出をした印鑑を押す手続きです。

電子化が進んでも印鑑が使われる5つの理由

印鑑が残った理由は、1つではありません。法律の決まりから使う人の気持ちまで、5つに分けてお話しします。

01
登記や登録で、実印と印鑑証明書を求める決まりがある

不動産登記令第16条は、紙で出す申請書に名前を記して印鑑を押し、印鑑証明書を付けるよう定めています。証明書は、発行から3か月以内のものに限られます。押印が残った118種類の手続きにも、不動産登記の申請や自動車の新規登録が入っています。

02
全国どの市区町村でも、印影を証明してもらえる

実印を登録しておけば、市区町村が印鑑証明書を出してくれます。受け取る側は、特別な機械やソフトがなくても、書類の印影と証明書を見比べるだけで本人の印鑑だと確かめられます。国がまとめた「押印についてのQ&A」も、実印なら印鑑証明書で証明しやすいと説明しています。

03
電子署名は、相手や窓口が対応していないと使えない

電子契約は、相手も同じサービスで署名しないと結べません。役所でも、電子署名を使えるのは、マイナンバーカードの電子証明書に対応したオンラインの手続きだけです。相手が個人の方で電子契約を使っていないときや、窓口が紙で受け付けているときは、今も実印を使います。

04
電子証明書には有効期間があり、引っ越しでも使えなくなる

マイナンバーカードの署名用電子証明書は、発行の日から5回目の誕生日までが有効期間です。期間の途中でも、住所や氏名が変わると失効します。実印の登録には、こうした期限がありません。京都市の場合、登録が消えるのは、ほかの市区町村へ引っ越したときなどです。

05
押すことで気持ちを示したい書類がある

婚姻届は、2021年9月から押印が任意になりました。法務省は、婚姻届の押印は残してほしいという声などを踏まえ、任意で押せるようにしたと説明しています。人生の節目の書類だからこそ、自分の印鑑を押したいという方もいらっしゃいます。

実印と電子署名は、同じ役目を別の道具で果たしている

電子署名は、印鑑の代わりに登場した新しい道具です。ただ、仕組みを並べてみると、実印とよく似た手順で本人を確かめていることが分かります。ここでは、実印とマイナンバーカードの電子署名を比べます。

実印紙の書類に押す

  1. 名前を彫った印鑑本人が1本を選び、手元で保管します
  2. 市区町村で印鑑登録住民票のある市区町村に、1人1個まで登録できます
  3. 印鑑証明書登録した印影を、市区町村が証明します
  4. 民事訴訟法第228条本人の押印があれば、本人が作った文書と推定されます

電子署名マイナンバーカードを使う

  1. マイナンバーカードカードと暗証番号で署名します
  2. 市区町村で電子証明書を記録住民票のある市区町村の窓口で、カードに入れてもらいます
  3. 署名用電子証明書本人が作った電子文書であることを示せます
  4. 電子署名法第3条本人の電子署名があれば、本人が作ったものと推定されます

大きな違いは、使える場所です。実印は紙の書類に押し、電子署名はオンラインで受け付ける手続きで使います。有効期間の違いは、4つめの理由でお話ししたとおりです。

2つの法律は、「本人のしるしがあれば、本人が作ったと推定する」という同じ考え方に立っています。電子署名法は2000年にできた法律で、押印の扱いを電子の書類にも広げたものと言えます。

民間の電子契約サービスにも、それぞれの方法で本人を確かめる仕組みがあります。どの方法を使うかは、契約の相手と相談して決めます。

印鑑を求められる場面、電子で済む場面

暮らしの中でよく出会う手続きを、電子や押印なしで済むものと、今も印鑑が要るものに分けました。迷ったときは、提出先の案内に従ってください。

手続き押印なしで済むか使う印鑑

確定申告2021年4月から、税務署に出す書類の多くは押印不要です

済む不要

婚姻届・出生届届け出る人の署名が要ります。押印は任意です

済む任意で押せる

会社どうしの電子契約相手も同じサービスを使う場合です

済む相手次第

家や土地の売買と登記紙で登記を申請するなら、印鑑証明書を付けます

紙なら要る実印

車の名義変更譲る人の実印を譲渡証明書に押し、印鑑証明書を付けます

紙なら要る実印

相続税の特例を使う遺産分割協議書国税庁が、引き続き押印が要る書類として挙げています

要る実印

口座振替の依頼書金融機関に求められたら、届け出た印鑑を押します

金融機関次第銀行印

会社の印鑑も、似た状況です。登記をオンラインで申請するなら、法務局への印鑑の届け出は2021年2月から任意になりました。ただし、代表者の印鑑証明書が要る会社は、今も印鑑を届け出ます。会社の実印の役目は、会社実印とは?で説明しています。

これからの持ち方|実印と銀行印は、分けて用意しておく

電子化で大きく減ったのは、認印を押す場面です。実印と銀行印は、押す回数こそ多くありませんが、出番がなくなったわけではありません。家や車の売買、相続、口座の手続きのように、大きなお金が動く場面ほど求められます。

実印は、注文してから市区町村で登録を済ませるまでに日数がかかります。住宅ローンの契約のように日程が決まっている手続きでは、その日に間に合うよう早めに用意します。契約日から逆算した準備は、住宅ローンの実印はいつまでに作る?で説明しています。実印が要る場面の一覧は、実印はいつ必要?にまとめました。

銀行印は、実印とは別の1本にしておきます。実印を口座の手続きにも使い回すと、登録した大事な印影が、銀行の書類にも残ってしまうからです。銀行印の役目は、銀行印は必要?でお話ししています。

よくある質問

マイナンバーカードを持っていれば、実印は要りませんか

オンラインで受け付ける手続きなら、電子署名で済むことがあります。ただ、家や車の売買や、窓口が紙で受け付ける手続きでは、実印と印鑑証明書を求められます。マイナンバーカードは、コンビニで印鑑証明書を受け取るときにも使えるので、実印とあわせて持っておくと便利です。

電子契約は、印鑑を押した契約より弱いのですか

弱いとは限りません。国の「押印についてのQ&A」によると、契約は当事者の意思が合えば成り立ちます。押印がなくても、効力は変わりません。このQ&Aは、本人が作ったと示す方法として、電子署名や電子認証サービスの記録も挙げています。

職場では押印がほとんどなくなりました。自分の実印は作らなくてもいいですか

職場の書類で減ったのは、主に認印の押印です。実印は、家や車の売買、相続、ローンのように、個人の財産に関わる手続きで使います。職場の電子化とは関係なく、今も出番があります。

電子化が進めば、いずれ印鑑はなくなりますか

押す回数は、これからも減っていくと考えられます。ただ、印鑑証明書を付ける手続きは、脱ハンコの見直しのあとも残りました。実印の登録には期限がないので、1本作っておけば、必要になったときに慌てずに済みます。

まとめ|届いた書類に押す印鑑の見分け方

まず、印鑑証明書を付けるよう求められているかを見ます。求められていれば、登録した実印を押します。次に、銀行や信用金庫に出す書類かを見ます。そうであれば、口座に届け出た銀行印を押します。

どちらでもなければ、多くは認印か署名で足ります。オンラインで済ませられる手続きもあります。押印欄があっても「押印不要」と書かれていれば、押さなくてかまいません。分からないときは、提出先に「どの印鑑が要りますか」と聞くのがいちばん確かです。

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SOURCES

出典

電子契約の利用状況は、総務省の令和3年版情報通信白書が引くJIPDECとITRの調査によります。行政手続の押印の見直しの数は内閣府の集計、押印と電子署名の法的な意味は民事訴訟法、電子署名法、押印についてのQ&Aによります。電子証明書の有効期間は地方公共団体情報システム機構と総務省、印鑑登録の抹消は京都市の案内によります。

  1. 総務省. 令和3年版 情報通信白書 第1部第2章第4節「デジタル化を前提とした業務・慣習の見直し」. https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd124600.html,(参照 2026-10-10).
  2. 内閣府. 押印を求める行政手続の見直し方針(根拠別集計)(令和3年3月31日時点). https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/imprint/document/210406document01.pdf,(参照 2026-10-10).
  3. 内閣府・法務省・経済産業省. 押印についてのQ&A(令和2年6月19日). 法務省ウェブサイト. https://www.moj.go.jp/content/001322410.pdf,(参照 2026-10-10).
  4. 内閣府. 押印を存続する行政手続(令和3年3月31日時点). https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/imprint/document/210406document03.pdf,(参照 2026-10-10).
  5. 民事訴訟法(平成8年法律第109号)第228条. e-Gov法令検索. https://laws.e-gov.go.jp/law/408AC0000000109,(参照 2026-10-10).
  6. 電子署名及び認証業務に関する法律(平成12年法律第102号)第3条. e-Gov法令検索. https://laws.e-gov.go.jp/law/412AC0000000102,(参照 2026-10-10).
  7. 不動産登記令(平成16年政令第379号)第16条. e-Gov法令検索. https://laws.e-gov.go.jp/law/416CO0000000379,(参照 2026-10-10).
  8. 地方公共団体情報システム機構. 電子証明書の有効期間と失効. 公的個人認証サービス ポータルサイト. https://www.jpki.go.jp/procedure/period.html,(参照 2026-10-10).
  9. 総務省. 公的個人認証サービスによる電子証明書. マイナンバー制度とマイナンバーカード. https://www.soumu.go.jp/kojinbango_card/kojinninshou-01.html,(参照 2026-10-10).
  10. 京都市. 印鑑登録. https://www.city.kyoto.lg.jp/bunshi/page/0000147302.html,(参照 2026-10-10).
  11. 国税庁. 税務署窓口における押印の取扱いについて(令和3年4月1日最終更新). https://www.nta.go.jp/information/other/data/r02/oin/index.htm,(参照 2026-10-10).
  12. 国土交通省. 売買等により譲渡、譲受する手続きの必要書類. 自動車検査登録総合ポータルサイト. https://www.jidoushatouroku-portal.mlit.go.jp/jidousha/kensatoroku/transfer/document/index.html,(参照 2026-10-10).
  13. 法務省民事局. 戸籍届書の様式変更について(令和3年8月). 法務省ウェブサイト. https://www.moj.go.jp/MINJI/minji04_00827.html,(参照 2026-10-10).
  14. 法務省. オンラインによる印鑑の提出又は廃止の届出について(商業・法人登記). 法務省ウェブサイト. https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00072.html,(参照 2026-10-10).