CHAPTER 06 書体・文字・印影
印篆(いんてん)とは?小篆との違いと、印鑑の篆書体との関係
印篆(いんてん)は、印章に用いる篆書のことです。書道で書く小篆を印の四角い面に収めるため、曲線を直線に近づけ、字の高さと幅をそろえて詰めた字です。小篆との違い、秦の摹印・漢の繆篆からの歴史、いまの実印や会社印の篆書体とのつながりをご説明します。
公開日: 2026年10月6日 更新日: 2026年10月7日
印鑑の書体を調べていると、「印篆(いんてん)」という言葉に出会うことがあります。篆刻の本や、印章店の書体の説明に出てきます。ところが、印鑑の注文画面には篆書体はあっても、印篆という書体は見当たりません。篆書体と同じものなのか、別の書体なのか、気になるところです。この記事では、印篆とは何かを、字の工夫と歴史からお話しします。
印篆は、印章に用いる篆書のことです。書道で書く篆書(小篆)は縦長で曲線が多く、そのままでは印の四角い面にうまく収まりません。曲線を直線に近づけ、字の高さと幅をそろえて枠に詰めたものが印篆です。始まりは、秦の時代の書体の1つ「摹印(ぼいん)」と、漢の役所の印に使われた「繆篆(びゅうてん)」です。いまの実印や会社印の篆書体は、この流れをくんでいます。当店の篆書体も、お名前の字数に合わせて字の幅や高さを整えて彫る、印篆の字です。
印篆とは|印に彫るために整えた篆書です
デジタル大辞泉は、印篆を「印章に用いる篆字」と説明しています。篆書そのものは、2,000年以上前の中国で使われていた漢字の古い書体です。その篆書を、筆で紙に書くためではなく、印に彫るために形を変えたものが印篆です。
- 読み方
- いんてん
- 意味
- 印章に用いる篆書。書道の篆書を、印の面に合わせて整えた字です
- 別の呼び名
- 摹印(ぼいん)、摹印篆(ぼいんてん)、繆篆(びゅうてん)。世界大百科事典は、この3つと印篆を同じものとして説明しています
- 始まり
- 紀元前3世紀、秦で使われた8つの書体の1つに、印に用いる「摹印」がありました。漢の役所の印に使われて広まりました
- いまの印鑑での姿
- 実印、銀行印、会社印の「篆書体」です。当店の個人の印鑑では、太と細の2種類から選べます
呼び名の整理|篆書・小篆・印篆・摹印・繆篆・漢印篆
篆書には、よく似た呼び名がいくつもあります。それぞれが何を指すのかを、1行ずつ並べました。
呼び名指すもの
呼び名は多くても、順に並べると1つの流れになります。書道で書く篆書が小篆で、それを印の面に合わせたものが印篆(摹印・繆篆)です。そのいまの姿が、印鑑の篆書体です。
印篆の4つの工夫|小篆を印の面に収めるために
世界大百科事典は、繆篆を「小篆を方形の中に入れるために曲線の代りに直線を使ったもの」と説明しています。印の面は、丸でも四角でも、紙と違って狭く、しかも枠があります。縦長の小篆をそのまま枠に入れると、左右にすき間が空き、上下は窮屈になります。そこで、印に彫る字には次のような工夫が加えられました。
図は、特徴を表した模式図です。実際の字の形を写したものではありません。
世界大百科事典は、こうして直線が増えた繆篆を「隷書への移行段階を示している」とも書いています。隷書は、篆書を速く書くために線をまっすぐにした書体です。印に彫る字も、曲線を直線に変えるという点で、同じ方向に進んでいたことになります。
印篆の歴史|秦の摹印から、いまの実印まで
-
紀元前3世紀|秦
秦の8つの書体の1つに、印に用いる「摹印」が数えられます
始皇帝が文字を統一し、小篆が公式の書体になりました。後漢の字書『説文解字』の序は、秦の書体として大篆、小篆、刻符、虫書、摹印、署書、殳書、隷書の8つを挙げています。このうち、印に用いたのが摹印です。
-
漢
役所の印に、繆篆が彫られます
世界大百科事典によると、漢では官職に任じた人に、その証として印を授けました。こうした役所の印に彫られた字が繆篆です。前漢と後漢の間の新の時代にも、6つの書体の1つに繆篆が挙げられています。
-
奈良時代|日本
日本の役所の印にも、篆書が彫られます
中国の制度にならって、日本でも役所ごとに印が配られました。天皇の印には、「天皇御璽」の4字が篆書で彫られていました。
-
明治7年
いまの天皇御璽と国璽に、漢印篆が彫られます
京都府によると、京都の印司だった安部井櫟堂(あべいれきどう)が1年がかりで作りました。いまも国の文書に押されている印です。
-
いま
実印や会社印、お札の印章に受け継がれます
お札の表に刷られている赤い印章「総裁之印」は篆書体です。実印や会社印で使われる篆書体も、この印篆の流れをくんでいます。
書道の篆書と印篆は、何が違いますか
紙や石碑に、筆で書きます
場所と道具印の面に、彫刻刀で彫ります
縦長の形です
字の形枠に合わせて、正方形に近づけます。横にも縦にも伸ばせます
丸みのある曲線が多く入ります
線曲線を直線に近づけ、折れ曲がりを増やします
字の外に、余白が広がります
余白枠の中に、余白を均等に配ります
泰山刻石(始皇帝が泰山に建てた石碑)。李斯の書と伝えられ、小篆の典型とされます
代表作漢の役所の印。いまの天皇御璽と国璽
書道の作品、字書の字形
いま見られる場所実印、会社印、お札の印章
字の形のもとは同じ小篆ですが、紙に書くか印に彫るかで、整え方が変わります。書道の篆書を見慣れた方が印鑑の篆書体を見ると、少し角張って見えるのはこのためです。
いまの印鑑に、印篆はこう生きています
京都府は、京都で作られる印章「京印章」の特色として、漢の時代の印の作風を受け継いでいる点を挙げています。当店は、この京印章を制作している店です。くわしくは京印章のご案内をご覧ください。
当店の職人も、印影を設計するときに印篆と同じ工夫をしています。お名前の字数に合わせて1字ずつの幅や高さを変え、枠との間隔を決め、線と線のすき間をそろえます。同じ「山本」でも、下のお名前が変われば、山と本の大きさや線の伸ばし方が変わります。
会社の丸印では、社名を外側の円に沿って1周させます。この並べ方を回文(かいぶん)と呼びます。縦にも横にも伸ばせる印篆は、円に沿って並べる回文にもよくなじみます。くわしくは印鑑の回文とは?でご説明しています。
印篆の印鑑を注文するには
注文画面で選ぶこと
- 1書体は「篆書体」を選びます
注文画面に印篆という項目はありません。書体の欄で篆書体を選べば、印篆の字で彫ります。個人の印鑑と会社の角印では、篆書体が太と細に分かれています。力強く見せたいなら太、すっきり見せたいなら細をお選びください。
- 2彫る名前を、戸籍どおりの字で入力します
旧字体や異体字でも、そのままお作りします。ひらがなやアルファベットには篆書の字がないので、職人が篆書体の線に合わせて字の形を作ります。
- 3彫る前に、印影を確かめるかどうかを決めます
「印影のご確認」で「確認する」を選ぶと、ご注文の2〜3日後にデザインをメールでお送りします。印篆の形に整えたご自分のお名前を、彫刻の前にご覧いただけます。
印影のご確認を選ぶと、お届けまでの日数が延びる場合があります。開運印鑑では承っていません。
よくある質問
注文画面に「印篆」という書体がありません
篆書体をお選びください。印篆は書体の名前というより、印に彫るための篆書を指す言葉なので、注文画面では「篆書体」と表示しています。太と細に分かれている場合は、どちらも印篆の字です。
書道の篆書と形が違いますが、字として正しいのですか
正しい字です。印に用いる篆書は、秦の8つの書体の1つとして『説文解字』の序に挙げられ、漢の役所の印にも使われてきました。書道の篆書とは、整え方が違うだけです。
印篆は読めませんが、実印として登録できますか
登録できます。京都市は、実印に使える印鑑の条件として、印影が鮮明で文字が読み取りやすいことを挙げています。篆書体は実印に広く使われている書体で、ふつうは断られません。断られやすいのは、字と分からないほど崩したものや、枠が欠けた印鑑です。
書画に押す落款印の篆書と、実印の篆書体は同じですか
どちらも印に彫る篆書で、もとは同じです。ただし、落款印は作品に合わせて作風を自由に選びます。実印は届け出た印影と照合する印鑑ですので、枠が欠けず、字が崩れすぎない形に整えます。
会社の角印の字も、印篆ですか
はい。四角い枠に社名を縦に並べるので、縦長の字を正方形に詰める印篆の工夫がよく表れます。当店の角印は、篆書体を太と細から選べます。角印の役割は、角印とは?でご説明しています。
印相体(吉相体)は、印篆の一種ですか
印相体は、篆書体をもとに線を枠まで伸ばした、日本で作られた書体です。もとをたどれば印篆につながりますが、当店では篆書体とは別の書体として扱っています。2つを並べた見本は、印鑑の書体一覧でご覧いただけます。
まとめ|印篆を知ったうえで、篆書体の印鑑を選ぶ手順
まず、作る印鑑の種類を決めます。実印や銀行印なら、篆書体は吉相体と並んでよく選ばれる書体です。会社印なら、社名を円に沿って並べる丸印も、縦に並べる角印も、篆書体で作れます。次に、線の太さを選びます。個人の印鑑と会社の角印では、篆書体が太と細に分かれています。最後に、「印影のご確認」を付けるかどうかです。付けると、彫る前にご自分のお名前の印影をメールで確かめられます。
漢印篆を受け継ぐ京印章の店で、篆書体の印鑑を作る
京都の職人が、お名前の字数に合わせて字の幅と高さを整え、彫刻します。印鑑ケース付き、送料無料、5年保証。ご注文から3〜7営業日で発送します。