CHAPTER 01 印鑑の基礎知識

印鑑廃止・脱ハンコとは?不要になった手続きと今も残る押印

脱ハンコ(印鑑廃止)では、押印を求めていた国の手続きの99%で、押印義務をなくすことになりました。一方、家や車の売買、相続、銀行では、今も実印や銀行印を使います。押印が不要になった手続きと今も押す手続きを、内閣府・法務省・国税庁の資料をもとに説明します。

公開日: 2026年10月10日

明るいオークの机に、ふたの裏側が見えるノートパソコンと、画面の消えたタブレットとペンが置かれている。手前には紺の布を敷いた桐の箱に黒水牛の印材と赤い朱肉入れが入り、茶封筒の束と緑茶の湯のみが並ぶ
印鑑廃止・脱ハンコとは 国の手続きから認印で済む押印がなくなり、実印と銀行印を使う場面が残りました

「印鑑廃止」「脱ハンコ」というニュースを見て、もう印鑑は要らないのかと思った方もいらっしゃるでしょう。実際、婚姻届や確定申告の書類は、押印がなくても受け付けてもらえるようになりました。一方で、住宅ローンを組むときや車の名義を変えるときには、今も実印を求められます。この記事では、脱ハンコで何が変わり、何が変わらなかったのかを、国の資料をもとに整理します。

先に結論

脱ハンコは、2020年から国が進めてきた押印の見直しです。内閣府の集計では、押印を求めていた行政手続き15,611種類のうち、15,493種類で押印義務をなくすことになりました。残った118種類は、印鑑証明書を付けて押すものか、法務局などに届け出た印鑑を押すものです。認印でよい押印は、1つも残っていません。家や車の売買、相続では実印を、銀行では銀行印を、これからも使います。

脱ハンコとは|2020年に始まった押印の見直し

脱ハンコは、役所の手続きや会社の慣行で求められてきた押印を、本当に必要なものだけに絞る取り組みです。「印鑑廃止」「ハンコ廃止」とも呼ばれますが、印鑑そのものや印鑑登録の制度がなくなったわけではありません。

きっかけは、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大です。このとき、書面・押印・対面を原則とする制度や慣行が、社会の課題として浮かび上がりました。政府と経済団体は同年7月、これを改めるという共同宣言を出しています。広がったテレワークを後戻りさせないことも、ねらいの1つでした。主な動きを年表にしました。

  1. 2020年6月
    「押印についてのQ&A」を公表

    内閣府・法務省・経済産業省が、契約は押印がなくても成り立つ、という考え方を示しました。

  2. 2020年7月
    政府と経済団体が共同宣言を出す

    同じ月の閣議決定にもとづき、各省庁が行政手続きの押印を順に見直すことになりました。

  3. 2021年2月
    会社の登記をオンラインで申請するなら、印鑑の届け出が任意になる

    書面で申請するときは、これまでどおり法務局に会社の印鑑を届け出ます。

  4. 2021年4月
    税務署に出す書類の押印が、一部を除いて不要になる

    確定申告書などに押さなくても、効力は変わりません。

  5. 2021年9月
    48の法律を改正し、婚姻届などの押印も任意になる

    デジタル社会形成整備法により、押印を求めていた手続きが法律の上でも見直されました。

数字で見る脱ハンコ|99%の手続きで押印義務をなくす

内閣府は、各省庁から見直しの結果を集め、2021年3月31日時点の数を公表しています。押印を求めていた国の行政手続きは、15,611種類ありました。

99.2%押印義務をなくす行政手続きの割合
15,611種類のうち15,493種類
  • 2020年
    12月まで
    13,435
  • 2021年
    3月まで
    1,753
  • 2021年
    4月以降
    305

出典:内閣府「押印を求める行政手続の見直し方針(根拠別集計)」(令和3年3月31日時点)。添付書類で押印を求めるものを含む数です。

押印を残したのは、118種類です。内閣府は、どんな印鑑を押すのかで、これを2つに分けて数えています。印鑑証明書を付けて押すものと、法務局などにあらかじめ届け出た印鑑(登記印・登録印)を押すものです。

押印を残した118種類の内訳

118種類2021年3月31日時点

印鑑証明書付き 52登記印・登録印 66

認印でよい押印は、0種類でした。残ったのは、届け出た印影と照らし合わせて本人を確かめる押印だけです。

押印を残した手続きの一覧には、不動産登記の申請、自動車の新規登録、特許などの権利の移転登録が並んでいます。どれも、財産や権利の持ち主を国の記録に載せる手続きです。印鑑証明書や、法務局に届け出た印鑑で本人を確かめる仕組みは、脱ハンコのあとも続いています。

押印が不要になった手続きと、今も押す手続き

暮らしに身近な手続きを、押印が不要になったものと、今も押すものに分けました。

押印が不要になった

婚姻届・出生届など戸籍の届け出2021年9月から

戸籍法第29条は、届け出る方の署名を求めています。押印は任意になり、押したい方は今も押せます。婚姻届の押印をなくさないでほしいという声も踏まえた、と法務省は説明しています。

確定申告書など税務署の書類2021年4月から

押印欄のある古い様式を使っても、押さなくてかまいません。押しても効力は変わりません。

会社の登記のオンライン申請2021年2月から

法務局への印鑑の届け出が任意になりました。ただ、会社の印鑑証明書が必要になるなら、印鑑を届け出ておきます。

今も押印が要る

家や土地の売買と登記実印と印鑑証明書

不動産登記の申請は、押印を残した手続きの1つです。売る方は登記の書類に実印を押し、印鑑証明書を付けます。住宅ローンを組んで買う方も、実印と印鑑証明書を求められます。

車の売買と名義変更実印と印鑑証明書

国土交通省の案内では、譲渡証明書に譲る方の実印を押し、新旧の持ち主の印鑑証明書を付けます。

相続税の特例を使うときの遺産分割協議書税務署の書類の例外

国税庁が、押印の見直しの例外として挙げています。担保や物納の書類のうち、実印と印鑑証明書を求めるものも同じです。

口座振替の依頼書銀行に届け出た印鑑

税金の口座振替でも、金融機関に届け出た印鑑を依頼書に押すよう、国税庁が案内しています。窓口での払い戻しなどに、届け出た銀行印を使う金融機関もあります。

会社の登記も、書面で申請するなら、法務局に届け出た印鑑を申請書や委任状に押します。法務省の案内では、定款や取締役会議事録など、押印が要る添付書類も残っています。

民間の契約に押印は必要?|押さなくても成り立つが、証拠として役立つ

国の「押印についてのQ&A」によると、契約は当事者どうしの意思が合えば成り立ちます。特別な定めがない限り、押印をしなくても契約の効力は変わりません。社内や取引先との書類で、押印をやめる会社も出てきました。

それでも、押す意味がなくなったわけではありません。民事訴訟法には、本人の押印がある文書を、その人が作ったものと推定する決まりがあります。その書類を誰が作ったのかを裁判で争われたとき、証明の負担が軽くなります。同じQ&Aによると、実印なら、印影が本人の印鑑のものだと印鑑証明書で示せます。認印では、それを示すのが難しくなります。家の売買やお金の貸し借りのように、あとで争いになると困る契約で、今も実印と印鑑証明書を求められるのはこのためです。

実印を使う場面は「実印はいつ必要?」で、銀行印については「銀行印は必要?」で詳しく説明しています。住宅ローンを組む予定の方は、「住宅ローンの実印はいつまでに作る?」もあわせてご覧ください。

脱ハンコのあとも持っておきたい印鑑

押す回数が減ったのは、主に認印です。一方、実印と銀行印は、届け出た印影と照らし合わせて本人を確かめる印鑑なので、今も使う場面が残っています。3つの印鑑の今の役目を並べました。

実印家や車の売買、相続、ローンで使います。脱ハンコのあとも、使う場面は変わっていません
銀行印口座を作るときに届け出ます。口座振替や窓口の手続きでは、銀行がその印影と照らし合わせます
認印役所では押す場面が減りました。宅配便の受け取りや、会社・学校に出す書類で使います

実印は、注文してから印鑑登録を済ませるまでに日数がかかります。家や車の契約では、決まった日までに印鑑証明書をそろえなければなりません。必要になる前に作って登録しておくと、慌てずに済みます。

押す回数が減った認印にも、役目はあります。実印や銀行印を認印代わりに押していると、本人確認に使う大切な印影が、あちこちの書類に残ってしまいます。3本を分けて持つ理由と本数の考え方は、「実印・銀行印・認印の違い」で説明しています。

よくある質問

脱ハンコで、印鑑登録もなくなるのですか

いいえ、印鑑登録の制度は続いています。内閣府の集計でも、印鑑証明書を付けて押す手続きが52種類残りました。市区町村の窓口では、今も印鑑を登録でき、印鑑証明書(印鑑登録証明書)も発行されます。

婚姻届に、記念として印鑑を押してもいいですか

押せます。押印義務はなくなりましたが、届け出る方が希望すれば押してかまわない、と法務省は説明しています。押す欄が残っている様式もあります。

確定申告書の押印欄に押してしまいました。問題はありますか

問題ありません。国税庁によると、押印が不要な書類に押してあっても、効力は変わりません。

会社を作るとき、会社の印鑑は作らなくてもいいのですか

登記をオンラインで申請するなら、印鑑の届け出は任意です。ただ、書面で申請するときや、会社の印鑑証明書を求められる契約では、届け出た会社実印が要ります。会社の口座を作るときの銀行印も含めて、「会社設立に必要な印鑑は?」で説明しています。

これから実印を作っても、使わずに終わりませんか

家や車の売買、相続、ローンの契約では、脱ハンコのあとも実印と印鑑証明書を使います。一度作って登録しておけば、こうした場面のたびに同じ実印を使えます。

まとめ|押印が要るかどうかを見分ける順番

まず、手続きの案内に「印鑑証明書」とあるかを見ます。あれば、実印が必要です。次に、銀行などの金融機関に出す書類なら、届け出た銀行印を押します。どちらでもない役所の書類は、押印が不要になっていることが多くあります。

迷ったら、窓口で押印が要るかどうかを確かめます。押印欄が残っていても、「押印不要」と書かれていれば押さなくてかまいません。家や車、相続の手続きに備えるなら、実印と銀行印を先に用意し、認印とは分けて持っておきます。

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SOURCES

出典

行政手続の押印の見直しの数は、内閣府が各府省の回答(令和3年3月31日時点)をまとめた集計と一覧によります。契約と押印の関係は内閣府・法務省・経済産業省の「押印についてのQ&A」、見直しのきっかけは政府と経済団体の共同宣言、48法律の改正はデジタル庁の法律の概要、戸籍の届書は法務省と戸籍法、税務署の書類は国税庁、商業登記は法務省、自動車の名義変更は国土交通省の案内によります。

  1. 内閣府. 書面規制、押印、対面規制の見直し・電子署名の活用促進について. 規制改革. https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/imprint/i_index.html,(参照 2026-10-10).
  2. 内閣府. 押印を求める行政手続の見直し方針(根拠別集計)(令和3年3月31日時点). https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/imprint/document/210406document01.pdf,(参照 2026-10-10).
  3. 内閣府. 押印を存続する行政手続(令和3年3月31日時点). https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/imprint/document/210406document03.pdf,(参照 2026-10-10).
  4. 内閣府・法務省・経済産業省. 押印についてのQ&A(令和2年6月19日). 法務省ウェブサイト. https://www.moj.go.jp/content/001322410.pdf,(参照 2026-10-10).
  5. 「書面、押印、対面」を原則とした制度・慣行・意識の抜本的見直しに向けた共同宣言(2020年7月8日). 内閣府. https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/imprint/document/200708document01.pdf,(参照 2026-10-10).
  6. デジタル庁. デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律の概要. https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/d12bde7e-a950-493b-987c-0f8d4bbd1b6b/20210901_laws_r3_37_outline.pdf,(参照 2026-10-10).
  7. 法務省民事局. 戸籍届書の様式変更について(令和3年8月). 法務省ウェブサイト. https://www.moj.go.jp/MINJI/minji04_00827.html,(参照 2026-10-10).
  8. 戸籍法(昭和22年法律第224号)第29条. e-Gov法令検索. https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000224,(参照 2026-10-10).
  9. 国税庁. 税務署窓口における押印の取扱いについて(令和3年4月1日最終更新). https://www.nta.go.jp/information/other/data/r02/oin/index.htm,(参照 2026-10-10).
  10. 法務省. オンラインによる印鑑の提出又は廃止の届出について(商業・法人登記). 法務省ウェブサイト. https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00072.html,(参照 2026-10-10).
  11. 法務省. 申請書、各添付書面等の押印の要否について(商業・法人登記). 法務省ウェブサイト. https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00143.html,(参照 2026-10-10).
  12. 国土交通省. 売買等により譲渡、譲受する手続きの必要書類. 自動車検査登録総合ポータルサイト. https://www.jidoushatouroku-portal.mlit.go.jp/jidousha/kensatoroku/transfer/document/index.html,(参照 2026-10-10).