CHAPTER 16 印鑑の贈り物・マナー
印鑑を贈ると縁起が悪い?言い伝えの真相と実際に困ること
「印鑑をプレゼントするのは縁起が悪い」と聞いて迷っている方へ。相手を縛る、責任を押しつけるといった言い伝えの由来と、縁起より実際に困る名前の字の間違いや持っている印鑑との重なり、縁起を気にする相手への渡し方を説明します。
公開日: 2026年9月24日
成人や就職のお祝いに印鑑を贈ろうと調べていて、「印鑑のプレゼントは縁起が悪い」という話を見かけた方もいるでしょう。相手を縛る、責任を押しつける、といった言い伝えです。喜んでほしくて選んだ品だけに、どう受け取られるかは気になるところです。この記事では、言い伝えの由来と、贈る前に確かめたいこと、縁起を気にする相手への渡し方を、順に説明します。
印鑑を贈ると縁起が悪いという決まりや根拠はありません。言い伝えの多くは、「判を押す」のような言葉や、契約に使う道具であることからの連想です。成人・就職・結婚・出産の節目に贈る習慣は、いまも続いています。実際に困るのは縁起ではなく、名前の字の間違いや、すでに持っている印鑑との重なりなどです。下で説明する5つの点を確かめておけば、安心して贈れます。
「縁起が悪い」と言われる言い伝えと、その由来
印鑑の贈り物について耳にする言い伝えは、いくつかの型に分かれます。どれも「そう聞いたことがある」という範囲の俗説で、地域や家庭によって言われ方が違います。よく聞く4つと、そう言われるようになったと考えられる理由を並べました。
「相手を縛る」「自由を奪う」ことになる
印鑑は契約の場面で使うため、「印鑑を渡す=約束で縛る」という連想が生まれたようです。けれども実際は、持ち主が自分の意思で押すための道具です。贈った側が代わりに押せるわけではありません。実印は、本人が市区町村の窓口で登録して初めて効力を持ちます。
「判を押す」=責任を押しつける意味になる
「判を押す」には、書類の内容を認めて責任を引き受けるという意味合いがあります。そこから、「責任を押しつける贈り物」と受け取られたようです。ただ、これは言葉遊びに近い連想です。実際に印鑑を贈るときに込めるのは、「自分の名前で物事を決められる大人になった」というお祝いの気持ちです。
刃物や履き物と同じく、贈ってはいけない品に入る
包丁やはさみは「縁を切る」、靴は「踏みつける」につながるとして、贈り物に向かないと言われます。印鑑もその仲間に数えられることがあります。ただ、印鑑には刃物や靴のような、切る・踏むといったはっきりした連想の元がありません。
印鑑は自分で作るもので、人からもらうと運が下がる
「実印は自分の意思で作り、自分で登録するもの」という考え方から生まれた言い方です。このうち登録については正しく、印鑑登録は本人にしかできません。けれども、印鑑を本人が用意しなければならない決まりはありません。節目にご両親やお祖父様・お祖母様が用意して渡すことも、よくあります。
どの言い伝えも、印鑑が約束や責任と結びついた道具であることから生まれた連想です。印鑑を贈ってはいけないという習わしがあるわけではありません。それでも気になる方は、後半で紹介する「自立の道具として贈る」伝え方を参考にしてください。
実際には、節目の贈り物として長く選ばれてきた
言い伝えとは反対に、印鑑は人生の節目に贈られてきた品です。明治6年10月1日の太政官布告で一般の人にも実印の使用が認められ、この日はいま「印章の日」になっています。京都の下鴨神社では、印章に感謝する祈願祭がいまも開かれています。
印鑑は、自分の名前で契約や届け出をするための道具です。そのため、大人になる節目の贈り物によく選ばれてきました。お祝いの種類ごとに、込められる意味と最初に使う場面を表にまとめました。
| 場面 | 贈り物としての意味 | 贈られた印鑑を最初に使う場面 |
|---|---|---|
| 成人祝い | 自分の名前で契約を結べる大人になった証 | 賃貸契約、自動車の登録、クレジットカードの申し込み |
| 就職祝い | 社会人としての最初の道具 | 入社書類の押印、給与口座の届出印 |
| 結婚祝い | 新しい姓で始まる暮らしの支度 | 新姓での口座の届け出、住まいの契約 |
| 出産祝い | お子様の名前を初めて形にする品 | お子様名義の口座の届出印 |
| 還暦・長寿の祝い | これまでの歩みへの敬意 | 相続や不動産の手続き |
印鑑が贈り物に選ばれてきた理由をもう少し詳しく知りたい方は、印鑑をプレゼントする意味とは?人生の節目に贈られる理由をご覧ください。
縁起よりも実際に困る、5つのこと
贈った印鑑が使われないまま引き出しにしまわれてしまう原因は、縁起よりも次の5つにあります。注文する前に、ひとつずつ確かめておきましょう。
京都市の案内では、実印として登録できるのは、住民票に記録されている氏名の文字を表した印鑑です。「郎」と「朗」のように字そのものを取り違えると、登録できません。「斎」と「齋」、「辺」と「邊」、「高」と「髙」のような旧字と新字の違いにも気をつけてください。旧字で名乗っている方に新字で彫った印鑑を贈ると、がっかりさせてしまいます。年賀状や名刺の字に頼らず、本人かご家族に戸籍どおりの字を確かめておくと安心です。
小さいころに親御さんが口座を作ったときの銀行印や、就職のときに自分で買った認印など、本人が忘れている印鑑もあります。「あの子の通帳の印鑑はどれか」をご家族で確かめてから、本数を決めましょう。何も持っていなければ実印・銀行印・認印の3本セット、1種類だけ持っているなら、残りの2本をセットで贈るのが基本です。
結婚を控えた相手に姓を彫った印鑑を贈ると、姓が変わったあと、実印や銀行印として使い続けにくくなります。改姓の予定がある場合は、名のみで作るか、新しい姓が決まってから贈るのがおすすめです。名のみで彫っておけば、姓が変わってもそのまま使い続けられます。
京都市の案内では、同じ形の印鑑が量産されているものは実印として登録できません。文具店に並ぶ既製品の三文判は、この理由で断られることがあります。全国銀行協会も、キャラクターものの印鑑は届出印に使えない例に挙げています。鶴や亀の絵柄を印面に入れると、窓口で断られるおそれがあります。縁起のよい柄を添えたいなら、印面ではなくケースや箱で選んでください。
印鑑は、渡しただけでは実印になりません。本人が住民登録のある市区町村の窓口で登録して、初めて実印として使えます。京都市では15歳以上の方が対象で、1人1個までです。渡すときに「使う前に役所で登録してね」と一言添えておくと、しまい込まれる心配が減ります。
この5つを含めた贈る前の確認は、印鑑のプレゼントは嬉しくない?贈る前に確認したい5つのことで詳しく説明しています。持っている印鑑から本数を決める考え方は印鑑のプレゼントは単品とセットのどちら?をご覧ください。
縁起を気にする相手には、こう伝える
贈る側が気にしていなくても、受け取る側が言い伝えを知っていることがあります。相手の考え方に合わせて、伝え方を変えてください。
- 「これからは自分の名前で決めることが増えるね」と一言添える
- 紅白の水引や桐箱で、正式なお祝いの形に整える
- 名前を鑑定して作る、鑑定書付きの開運印鑑を選ぶ
- 渡す日を成人式や入社日など、節目の当日に合わせる
- 「一人暮らしや車の契約で要るから」と用途を伝える
- 実印・銀行印・認印の使い分けを書いたメモを添える
- ケースの色を本人の好みに合わせる。黒・赤は無料、カラー牛革は950円から
- 「縁起が悪いって聞いたけど」と自分から話題にしない
願いを込めて贈る3つの方法
せっかくなら縁起のよい贈り物にしたい、という方には、印鑑の使い道はそのままに願いを込める方法が3つあります。
桐箱と水引で正式な形に整える
どの場面にも合う、いちばん手軽な方法
- やり方
- 注文時に化粧箱か桐箱を選び、包装の色を指定します。のしや水引のご希望はお問い合わせから承ります
- 伝わること
- きちんとしたお祝いであることが、ひと目で伝わります。言い伝えを知っている相手にも、正式な贈り物として受け取ってもらいやすくなります
鶴亀柄のケースに入れる
結婚祝いや長寿のお祝いに
- やり方
- ケースを「鶴亀」に変更します。追加料金は直径によって2,400〜3,400円です
- 伝わること
- 印面には名前だけを彫るので、銀行の届出印にもそのまま使えます。ケースを開けるたびに、長寿や円満を願う鶴亀の柄が目に入ります
名前を鑑定して作る開運印鑑
縁起を大切にする相手に
- やり方
- 姓名鑑定士が名前の画数を読み解き、その結果をもとに職人が印影を設計して彫刻します。鑑定書、下鴨神社の印鑑お守り、桐箱が付きます
- 伝わること
- 鑑定書に名前の見立てが書かれているので、贈る側が縁起を語らなくても、相手が自分で読んで確かめられます。実印は薩摩本柘13.5mmで17,600円から
開運印鑑は効果を約束するものではなく、鑑定の結果をもとに印影をデザインし、願いを込める作り方です。考え方は開運印鑑は効果がある?科学的根拠と縁起物としての考え方で説明しています。縁起物全般の意味と贈り方はお祝いの縁起物プレゼント|意味の一覧と押しつけない贈り方にまとめました。
「高価な印鑑を贈ると税金がかかるのでは」と心配される方もいます。国税庁のタックスアンサーは、贈与税がかからない財産として、個人から受け取るお祝いの品を挙げています。ただし、世間の常識の範囲(社会通念上相当)と認められるものに限られます。本象牙の3本セットのような高価な品でも、成人や結婚のお祝いとして常識の範囲なら、贈与税の心配はいりません。
贈るのを見送ったほうがよい場合
縁起とは別に、印鑑の贈り物が向かない場面もあります。次に当てはまるなら、別の品を選ぶか、時期をずらしてください。
相手が言い伝えを強く信じているどれだけ意味を添えても、本人が「もらいたくない」と思っている品は、使われにくいものです。その場合は無理に贈らず、本人が印鑑を必要とする時期に「一緒に選ぼう」と声をかけてみてください。
名前の字を確かめる手段がない職場の同僚や遠い親戚など、戸籍の字を聞けない相手に実印や銀行印を贈るのは避けてください。どうしても贈るなら、字の違いが問題になりにくい認印1本にとどめます。
すでに3本とも持っていて、作り替える事情がない実印は1人1本しか登録できず、銀行印を変えるには金融機関で改印の届け出が要ります。3本揃っている相手には、記念品として本象牙の実印1本を贈るか、印鑑以外の品を選びます。
よくある質問
目上の人に印鑑を贈るのは失礼ですか
失礼にはあたりません。ただ、目上の方は実印・銀行印・認印をすでに揃えていることが多いものです。還暦や退職の記念なら、いま使っている印鑑より上質な素材の実印を1本贈る形がよく選ばれています。相続や不動産の手続きなど、この先も実印を使う場面はありますので、実用の面でも役に立ちます。
名前を彫った印鑑を贈るのは「その人を縛る」ことになりませんか
なりません。名前を彫った印鑑は本人が使うための道具で、贈った側がそれを使う場面はありません。実印として使えるのも、本人が自分の意思で役所に登録したあとです。他人が勝手に登録することはできません。「縛る」というより、「本人だけの道具を渡す」贈り物です。
大安など、渡す日を選んだほうがいいですか
決まりはありません。日にちを大切にしたい方は、成人式や入社日、入籍日など節目の当日か、その少し前に渡すと自然です。印鑑は名前を彫ってからお届けするため、当店ではご注文から発送まで3〜7営業日ほどいただいています。渡したい日から逆算してご注文ください。
中古や親のお下がりの印鑑を渡すのは縁起が悪いですか
縁起よりも、実用の面で気をつけたいことがあります。親御さんの名前が彫られた印鑑は、同じ苗字でも、お子様の実印としては登録できないことがあります。京都市の案内でも、同じ世帯の方が登録済みの印鑑は認められていません。親御さんの印材を受け継ぎたいなら、印面を削ってお子様の名前で彫り直す「改刻」という方法があります。詳しくは親から受け継いだ印鑑は使える?をご覧ください。
縁起を気にする相手に、何と言って渡せばいいですか
「これからは自分の名前で決めることが増えるから、長く使えるものを選んだよ」という一言で、贈った理由は伝わります。言い伝えの話を自分から持ち出す必要はありません。開運印鑑なら、付いてくる鑑定書を一緒に渡して、あとは本人に読んでもらってください。
まとめ|印鑑を贈ると決めたら、この順番で準備する
言い伝えに根拠がないと分かったら、次の順番で準備を進めてください。
まず、相手が縁起を気にする人かどうかを考えます。強く気にする人なら、本人が印鑑を必要とする時期まで待つのもひとつの方法です。気にしない人、または説明すれば受け取ってくれそうな人なら、次に名前の字と、すでに持っている印鑑を確かめます。何も持っていなければ3本セット、1種類あれば残りの2本と、本数もここで決まります。結婚を控えている相手なら、名のみで作るかどうかも決めておきます。
最後に、桐箱と水引、鶴亀柄のケース、鑑定書の付く開運印鑑のどれで渡すかを選び、渡したい日から逆算して注文します。渡すときに「使う前に役所で登録してね」と添えれば、準備は終わりです。